第25章


[07] 



 どうするか……。正直、戦いたい相手では無い。あの手でリンゴのように握り潰されるイメージが頭に映る。それと――何か別な恐怖感を感じるのだ。それが何なのかわからないが。
 ロゼリアにしか興味が無いようだし、いっそロゼリアは見捨ててアブソルとムウマージだけこっそり連れていけば……等というとんでもない考えまで脳裏をよぎった。
「もー、走るのが早いってば!」
 遅れていたミミロップが、文句を垂れながらようやく追い付いてきた。
「しっ――」
 俺は声を静めさせようとしたが――。
「きゃあッ!」
 何かに躓き、ミミロップが悲鳴と派手な音を立てて転ぶ。まずい――。
「ん? そこにいるのは誰なのぉん? 出てらっしゃあい!」
 存在をあの巨人に気付かれたか。……覚悟を決めるしか無さそうだ。
 部屋に飛び込み、いつでも戦闘に移れるよう低く体勢を構えて、巨人を睨み上げる。
「その腕で掴んでいるのと、足元で困り果てているのは俺の仲間だ。そしてお前の後ろでガタガタ震えている情けない手下共も。――まとめて返してもらおうか?」
 巨人はたらこ唇のようなべったりとした觜をいやらしく歪める。
「いやぁよ。元々、この山はこのあたし、カイリキーさまぁん……のものだったんだからぁ。そしてこの山に勝手に来たものも、あ・た・し・の・も・の」
 カイリキーと名乗った巨人はぎゅっとロゼリアを抱え込む。ロゼリアは泡を吹いて気絶していた。
「ならば力付くで――」
「あらぁん?」
 言葉を遮るように、カイリキーはこちらに顔を伸ばすように俺の顔を覗く。
「あんたもよぉく見れば、い・い・オ・ト・コ!」
 全身の毛という毛が逆立つのを感じた。極寒の地に突然放り込まれたようだ。
「今日はついてるわぁ! あなたもあたしのコレクショぉンにし・て・あ・げ・る。」
 ――かつてない異質な恐怖が俺を襲う。

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