第23章


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「ふん、それがどうした。俺はそのようなこと、気にはしない」
「うん、ありがとう、ピカチュウ」
 白い獣の曇りが晴れる。
 だが、全てを知った時、この幼い獣は耐えられるのだろうか。ありとあらゆるものの頂点という立場、自分が引き起こした事。逃げたくてもけして逃げられない神としての業。
 あまりにも酷ではないか。これが自らに科した罰だとでもいうのか――アルセウス。俺はお前の友として何ができる。この幼き獣に何をしてやればいい。

「どうしたの?」
 黙っていた俺の顔を白い獣が心配そうに覗き込む。――今はまずここからこいつを無事に出させてやるのが先か。
「いや、何でもない。さあ、早く行くぞ。飛び付く元気があるんだ、歩けるな? あー、えーと――」
「もしかしてボクの呼び方に困ってるの? そうだなぁ……クレセリアが言うにはボクの姿は“アブソル”っていうポケモンなんだって! でも真の姿は違うんだって。よくわからないけど」
「うむ……では行くぞ、アブソル」
 神ではなく普通のポケモンとして生きてみたい――最期に述べたお前の望みを一時だけでもかなえてやれるだろうか。

 さて、この部屋にもう用はない、とりあえず上へ戻ってみるとしよう。そう通り抜けられる壁へ振り向くと、壁は無く上へと続く階段が直接見える。こちらからではあの壁は見えないようだ。
 ――つまり、この部屋へ入ってきた時の俺は、アブソルから見れば突然その場で振り向き、背中から突っ込むというわけのわからない行動をしていたというわけか。
 アブソルがくすくす笑いだす。
「部屋に入ってきた時のピカチュウ、面白かった」
「……忘れろ」




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