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負けない!!負け犬【３】～私とＪｒ.と銀時と～《連載中》

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[20]12月20日(新八)

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突然万事屋に上がり込んで来た酔っ払いは、僕らに向かって言った。

「お前ら、万事屋ってんだから[なんでも屋]だよな。ヒック…

だったらこの不幸な俺様を、ちったぁ幸せな気分にしてみろやァ！ヒック。」

酒臭い息を吐きながら怒鳴り散らすオジサンに、僕と神楽ちゃんは怖気付いてしまい、ついその場を銀さんに委ねた。

しかしさすがに数々の死線を潜り抜けてきた男だ。

彼は落ち着いた様子でオジサンをソファーに座らせた。

「で、何？

アンタ不幸なの？どんな風に？」

向かいのソファーに座った銀さんは、某大物司会者のお昼の身の上相談のような口調で話し始めた。

たぶん本人もそのつもりなんだと思う。

「何が不幸ってお前、全部だよ全部！

例えばだな…」

「例えば何アルか？」

神楽ちゃんは銀さんの隣に座り、オジサンの顔を覗き込んだ。おそらく司会者の横で一緒に相談を受けるアグ○ス・チャンになりきってるに違いない。

「例えば、嫁さんがいっつもエラそーに俺を罵りやがってよォ。

何様のつもりだってェんだ。」

「あー分かる、分かるわソレ。

うちもそうなんだよ。

朝なんか[起きなさい]を三回言うまでに起きなくちゃ、ヘッドバットだからね。」

「え、ヘッドバッ…」

オジサンは坂田家の朝の惨状に、軽く引いているようだ。

「そ…それに娘なんか、思春期だか何だか知らねェが、俺の事なんか見向きもしねェ。

そんでよォ、なんだかチャラチャラした兄チャンと遊び歩いてて、もォ俺ァ泣きたいよ。」

「あー泣きたくなるよねー。

俺もうちの神楽がドＳの武装警察と付き合ってるって聞いた時、正気じゃいられなかったもん。」

「え、ド…ドＳ…」

驚きのあまり、オジサンは手に持っていたビールの缶を落としそうになった。

「わっ！オッサン、こぼすんじゃねーぞ!!

それビールだろ!?

こぼすくらいなら俺にくれ！

最近はビールが高いから発泡酒にしたっていう家が多いけど、それなんか贅沢な方だって。うちはそれどころか焼酎飲まされてるからね。

それも知らないメーカーのでっかいお徳用ボトル。

この間なんか、半分まで減ったと思ったら翌朝満タンに増えてんだよ。おかしいな～と思ったら、嫁さんが水道水入れて水増ししてやがってさァ。」

「…」

オジサンは、ポケットからビールをもう一本出し、銀さんの前に差し出した。

だんだんと僕らに気を許しだしたのか、オジサンは先程までのように語気を荒げる事は無くなった。

それどころかうつむいて、泣きそうにさえなっている。

「家のローンもまだあと１０年以上残っててよォ。

おまけに下のガキが留学したいなんてぬかしやがる。

こんな安月給の俺にどうしろってんだよ、なァ兄チャン！」

「おぅ、そうだよな、オッサン！

俺だってそこそこ儲けてるけどよォ、端から端から無くなるんだよ。

だってこの成長期やら大食娘やら巨大ペットやらが、毎日シャレになんないくらい食うんだもんな～。

一日メシ五升だよ、五升！！」

「……」

あれ？オジサンの様子がおかしいな。

もう愚痴はこぼさないんだろうか。

オジサンはソファーからおもむろに立ち上がり、窓の外を仰ぎ見た。

「…そうだよな。

俺の悩みは全部家族の事ばっかなんだよな。

家族がいなきゃ、悩む事さえ出来なかった。

家族の事で悩めるってのは、実は幸せな事なんだろうな。」

オジサンは酔いの覚めない千鳥足のままで、玄関へ向かった。

「すまなかったな、兄チャン。

こんなつまんねェ事に気付く為にアンタらまで巻き込んじまって。」

「いや…またいつでも来いよ、オッサン。

今度はウマい酒でも飲みながら、互いに不幸な幸せ自慢し合おうぜ。」

オジサンは振り向かず、片手をちょいと上げて玄関を出た。

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