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《完結》負けない!!負け犬【２】～みんなの日記～

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[07]１１月25日(新八)

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今日のお客様は、この万事屋には不釣り合いな上品な御夫婦だった。

おそらく５０代半ばくらいではなかろうか。

｢粗茶ですが。｣

この方達にしてみれば、こんなの本当に粗茶なんだろうな…と思いながらも僕はお二人に差し出す。

テーブルを挟んで銀さんと神楽ちゃんと僕が席に着くと、ご主人が何か差し出された。

写真。２０代の男性だ。

｢これは私の息子です。

名は勘助と申します。

五年前より家出をし、消息を断っておりまして…。｣

あぁ、なるほど。

今回の依頼は人探しか。

今度は奥さんが口を開いた。

｢ところが先日、あるところより『勘助は亡くなりました』との連絡があり、遺体を引き取りに行ったのです。｣

え？それじゃあ今回の依頼は何…？

ご主人はもう一枚の写真を取り出した。

今度は小さな男の子とお婆さんが写っている。

｢幼い頃の勘助と私の母です。

母は大変勘助をかわいがっておりまして、そのかわいがり様と言ったら目に入れても痛くない程で…。｣

その様子は写真からも伺えた。

勘助さんを抱き締めるお婆さんは目を細め、その柔らかなほっぺにおもいきり口づけをしている。

｢それほどにまで想っていた孫です。

それが死んだなどとはとても母には言えなくて…。｣

そうだよね。

お年を召したお婆さんに伝えるにはちょっと酷なお知らせだよね。

｢実は今、母は危篤状態です。｣

お二人はうつ向いて、ハンカチで目頭を押さえた。

｢意識も朦朧としており、目もあまり見えてはおりません。

いつ息絶えてもおかしくはない状態です。

しかしそんな死の淵で口にするのは、勘助の名前なのです。

うわ言のように『勘ちゃん、勘ちゃん』と呼ぶのです…!!｣

ご主人はワッと泣き崩れ、テーブルに突っ伏した。

ご主人の肩を擦りながら、奥さんも泣いて続けた。

｢今夜が峠とお医者様からも言われております。

せめて義母の元に、偽物でも良いから勘助を連れて来てあげたいのです。｣

それってつまり…

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大江戸総合病院。

さすがにお金持ちは違う。
最高額の個室には、畳敷きの広い家族室やウォシュレットトイレ、シャワールームに電話まで付いている。

時々銀さんがお世話になる大部屋なんかとは比べ物にならないくらいの贅沢設備だ。

そんな豪華な部屋の白いベッドで、沢山の管に繋がれたお婆さんは横たわっていた。

お婆さんは苦しそうに、ゼィゼィと肩で息を繰り返している。

元看護師の華蓮さんから教えてもらった事がある。
こういうのを[ドリョクコキュウ]と言い、もう臨終間近である事のサインなのだそうだ。

絶え間なく繰り返される息の合間に、時々｢勘ちゃん…｣と呟くのが聞き取れる。

死の間際まで頭を離れない孫の勘助さんを、何度も何度も呼び続けている。

その光景を見続けるのはあまりに辛くて、僕と神楽ちゃんは思わず顔を背けてしまった。

しかし銀さんだけは違った。

｢おばあちゃん、僕だよ。
勘助だよ。｣

お婆さんの傍らで手を握り、ご夫婦から教えられた通りの勘助さんのしゃべり方で、優しく語りかけている。

あの温かな眼差しは、[依頼]という理由だけでは出来ない。

きっと銀さんは今、【勘助さん】なんだ。

椅子には座らず床に膝をつき、目線をお婆さんの顔に合わせ、耳元でゆっくりと大きな声で語り掛けている。

さっき仕事中の華蓮さんに電話して教えてもらった付け焼き刃のはずだけど、銀さんはとても自然にそれをこなしていた。

｢ただいま。

おばあちゃん、僕を待っていてくれてありがとう。

遅くなってごめんね。｣

銀さんは…いや、【勘助さん】は、お婆さんの筋張った細い手を包むように優しく撫でた。

ハッキリ言ってしまえば今お婆さんの意識は無いのだから、こんな風に語り掛けたり手を握ったりしたって意味は無いんだ。

でもご夫婦も【勘助さん】も、必ず伝わると信じて疑わない。

一瞬でもこの光景を現実的な目線から見てしまった僕は、罪悪感にかられた。
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