第四章


[01]拘束


黒い壁。
黒い扉。
黒い天井。
黒い鉄格子の嵌った窓の向こうも黒い空。



・・・・・・ここに来て何日になっただろう。

毎日差し出される食事の回数を思い出そうとする。

だが、毎食同じものが供される単調過ぎる日々は、日にちの感覚を狂わせ、思い出そうとする端から忘れてしまう。

だがまだ数日の筈だ。
少なくとも10日は経っていない。



それとも、気づいていないだけでとっくに何ヶ月も経ち、審議は終わってしまったのか?



それにしても、ここは空気が重い。

来たばかりは暇を持て余し、体が鈍らないよう始終動かしていたが、今は立ち上がるのも億劫だ。
身体を動かさないせいか腹も減らず、毎回の食事の量も減ってきている。
いや、もう食事をすること事態が面倒だ。

日に日に細くなる自分の腕を無感動に眺める。



風が吹く。



全身を包み込む重たい空気がほんの一瞬和らぎ、同時に分散していた思考が少しだけ戻ってくる。


今は、格子の嵌ったこの窓だけが自分と外界を繋ぐ唯一のもの。
時折吹く風が外の香りを運んでくるのだ。



戻らなくては。



それは繰り返し浮かぶ言葉。

水面を漂うように揺らめく意識の中で、何度も何度も祈るほどに思う。



帰らなくては。



あのとき、必死に追いかけてきた腕。

伸ばされた指先は大勢の兵士によって、床へ落ちた。
高価な絨毯に必死の爪痕をつけ、それでも諦めない。

自分の名を呼ぶ声が、あの騒ぎでもはっきりと聞こえた。


泣きたくなった。


だから振り返り、大丈夫と言った。

何の確信もなかったけれど・・・・・・・。



外は黒い、だが星が本物の宝石よりも尊く瞬いている。

まるで今の自分。

闇色の意識の中、時折瞬く眩しい言葉。

自分をつなぎ止める星。


戻らなくては・・・・・・・。


意識はまた闇に飲み込まれた。


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