第二章


[01]旅路@


夕陽が赤く木々の隙間から差し込み、鮮烈な色が時折視界に入っては残像を残していく。

季節は春だが、夕方ともなると気温は下がり、風も冷たい。

傾いた陽光に照らされ、銀髪をまるで本物の炎のようになびかせたサイクレスは、傍らを見下ろした。

隣には歩調に併せて揺れる黒髪。しかしそこに黄金の流れはない。

夕陽を浴びても普通の黒髪にしか見えなかった。




あれからすぐ準備をし、エナルへ向けて出発したのだが、その際変装と言って蒼は目立つ髪を染めてきた。

しかし、大した時間は掛かっていない。旅支度をしてくると言ってカウンターの向こうに消え、半刻もせずに現れた時には既に金髪の部分は全くわからなくなっていた。




ちなみに、群青の布による派手な登場の演出は、なんのことはない、カウンターの陰に作られた地下室の扉から出てきただけであった。

唖然とするサイクレスに、種明かしでもするように蒼は肩をすくめてみせた。





さて、エナル皇国の首都は一般人の徒歩で1日半と、意外と近い距離にある。

蒼の店まで一昼夜馬を飛ばしてきたサイクレスだったが、葦毛の愛馬は力を使い果たし、休憩させなくては走ることが出来ない。
愛馬を近くの家に預けて代わりの馬を調達しようとも思ったが、蒼は、

「置いていかなくても大丈夫ですよ。歩けば」

と、てくてく歩き出してしまった。

慌てて止めて急ぐと言っても、

「焦っても状況はそんなに変わりませんよ」

と、取り合わない。

結局、エナル皇国への旅路は、馬が回復するまで徒歩となってしまったのだった。



そんな毒操師蒼は、ほけほけとした足取りでサイクレスのほんの少し後ろを歩いている。

ズルズルしたローブの代わりに木綿の上衣と下衣、柔らかい羊革の長靴を身に付け、群青色の外套を羽織っている。

全体的に砂色な中、外套だけがヤケに鮮やかだ。

しかし、よくよく見るとそれは、先程まで纏っていたローブを肩に巻き付けピンで留めているだけだった。

妙に準備が早かったのは、もしかするとローブを脱いだだけだったからかもしれない。

染めて、今度こそ艶の少なくなった巻き毛は紐でテキトーにくくっており、ローブ姿よりは随分さっぱりした筈だが、鼻先に掛かる長い前髪がそのままな為、余り印象は変わっていない。

相変わらず飄々として得体の知れない人物だ。


サイクレスは蒼の行動に怯みつつも、大事な上官の為、せっせとエナルへの旅路を急ぐのだった。

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