恋×2(完結)


[05]目覚め


「…ン」
かすかな衣擦れの音と、青木な小さな声。

「大丈夫か、青木?」
外を見ていた窓から振り返ると、ゆっくりと起き上がる青木の姿が見えた。
うつむいたままで、表情はよく見えない。

「ここは?」
「文芸部の部室。お前、桜の木の下に倒れてた…」
「山本が…運んでくれたの?」
「ん」
俺の返事を聞いて、青木は顔を伏せた。
膝を抱えて、俺の視線から完全に顔が見えないようにする。

「無理しすぎじゃね?」
「………」
笑いながら、何とか絞り出した声に返事は返ってこない。
また、具合が悪くなったのか?


「…なんで」
「え?」
「なんで、やさしくするの?」
顔を伏せたまま、搾り出すように出された言葉。
さっき、桜の木の下でそうだったように、肩が小刻みに震えていた。

「なんでって…放っとけば良かったのか?」
「…その方が良かった…」
「………」
小刻みに震えながら搾り出される声は、細くて弱くて…
いつもの青木じゃなった。

「なんかあった?」
「…別に」

「じゃ、なんで泣いてんの?」
「関係ないでしょ…もう、大丈夫だから…放っといて…」
こっちは心配で訊いてんのに…
青木の突き放すような言葉に、ついカッとなってしまった…
気がつけば、大声で叫んでいた。

「放っとけるわけないだろ!」
ビクッと小さな肩が震える…。
それでも、顔をあげることはない。

「友達…だから?…それって…残酷すぎるよ…」
「は?なにが、残酷なんだよ?」
「それがわかんないから、山本は残酷なんだよ…」


は?やっぱ、わけがわかんねー。
なんなんだよ、それ…
なにが、どう、残酷なんだよ…


俺は、青木だから…

「青木だから、心配なんだよ。
他のヤツだったら、保健室に連れってて、終わってる…
お前じゃなかったら、泣いてても放っておくさ…」

「私だからって、なによ。なんで、私にやさしくするのよ。
友達なんでしょ?必要以上に、やさしくしないで!」
青木はいきなり顔を上げると、俺を睨みつけて大声を上げた。
鋭い光を放つ大きな瞳からは、止まることない涙が溢れている。


もう、ダメだ…
もう、押さえきれない。

苛立った俺の感情は、暴走して抑えることができない。



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