ジュリエットな君とロミオな私 (君と私@)(完結)


[03]第3幕


劇はクライマックス。

ロミオは町を追放され、絶望のなかにも希望を持ってジュリエットは眠り薬を飲んだ。
ジュリエットの偽装自殺シーンだ。

嘆き悲しむ家族によって、彼女の体は棺に入れられ、墓地風のステージ中央に置かれた。

そこに到着するのは、何も知らない哀れなロミオ。
パリスとの決闘はあっさりと終わり、恋人が死んだことを嘆き悲しむ。

そのいとしい人の薔薇色の唇に、唇を寄せ…(もちろん、触れたりはしない)

そして、失意の中…
小瓶の中身を飲み干した。

ジュリエットの棺の横に崩れ落ちるロミオ…


そして、目覚めるジュリエット…
ロミオの手の小瓶を見て、彼女は全てを知る。
毒薬が残っていないか死んだ愛する夫の唇へ唇を寄せる…


目をつぶっているからわからないけど、今、幕が下りてるはず…
だんだんと周りが暗くなってきた。

やっと終わる〜。



なんて油断したら…


唇に湿った温かい感触。
びっくりして目を開けると…
姫野君が私にキスをしていた。



なんで?
なんで?
なんで?

疑問符ばかりが頭を掠めて、拒むことを忘れていた。


拒めばよかった…

力が抜けて半開きになった唇を舐めあげ、舌が進入してきた。

嘘…でしょ?


ファーストキスなんですけど…


必死に舌を逃げ回らせたけど、見つけてはちゅくっと吸い上げられる。
逃げちゃダメだ、というように甘く噛まれる…


ぼうっとした。
不覚だった…


そして、らしくもなく涙が出た…。


何の涙かわからないけど、ただ静かにメイクを施した頬を流れた。


「巡礼にも唇はあるのですよ。聖女様」

彼はそう言うと、私の涙を拭った。


そして私の手をとり、私を幕の前へと引っ張った。
そうだ、挨拶があるんだった…


挨拶…

ちゃんとやらなきゃ…
にこやかに微笑んで、みんなでおじぎ。手を繋いで、一斉に頭を下げる。
役者も裏方も見てくれた人に感謝のおじぎ…

簡単なこと…のはずなんだけど、今日は別。
姫野君、恋人繋ぎしてくるんだもん…

妙に緊張する。
顔も赤くなるし…
もう、なんなのよ〜。

早く終われ。
終わってくれ〜…



…やっと終わった。


って、姫野君…
手、繋いだままなんだけど…
恋人繋ぎで!


離そうとしたけど、意外と大きな彼の手は、痛いくらいに私の手を握りしめる。

「痛い!姫野君、手、離して」
客席に聞こえないように小声で・・・抗議してみる。
男の子の握力ってこんなにあるの…?
力いっぱい握られた手からは、痛みの信号しか来ない。
なんで、こんなに握り締めるの?

痛いよぉ。


「…ごめん、まこちゃん。だって、まこちゃん、逃げちゃいそうで…」
握りつぶされそうになっていた手は、なんとかその災難から逃れることができた。
でも、やっぱり恋人繋ぎはそのまま…


手を引かれるようにして、壇上から退場する。


もう、劇は終幕なんだけど…
ジュリエットに手を引かれるロミオってどうよ…


なんか、情けない。


[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.