本編「〓Taboo〓〜タブー〜」@


[03]chapter:1 訪問者


「今日学校行きたくないな」

「じゃ行かなきゃいいんだよ」

「君だれ?」

「僕は君だよ」




また僕が現れた。

僕といっても僕の中の僕だ。

ガシャーン!

窓の外からガラスの割れる音がした。
どうせまた隣のバグマン夫妻が喧嘩を始めたのだろう。

「あなたまた浮気したでしょ!」
「してないよ!」
「じゃあ何この服はなに!私こんなの買った覚えないわよ!!」

またバグマンさんは浮気がバレたらしい。外ではしきりにガラスや皿の割れる音がしている。
あの家はそんなに家具に金を還元できるほど経済が豊かなのだろうか。

僕は眠い目をこすりながら重い体を起こした。
窓からの光が眩しく目が眩んだ。
窓の外からは小鳥の鳴き声とガラスの割れる音が聞こえる。

トボトボと歩きながらドアを開け部屋を出た。

下からはカチャカチャとナイフを扱う音が聞こえる。
今日の朝ご飯はなんだろう?
そんなことを考えながら僕は階段を下りた。


ガタン!!


こけた。
どうやら体はまだ起ききれていないようだ。

「お、おい大丈夫か?」

兄のシリウスが心配して料理をやめ僕のもとへ寄ってきた。

兄は僕にかなり過保護だ。ついでに極度の心配性。
「立てるか?ほら、手を」
「大丈夫だよ兄さん。こけたのは一番下の段だったからそんなに痛くない」
兄さんは納得してないようだったが渋々台所に戻っていった。

食欲をそそるチーズの焼けるいい匂いがする。
兄さんはフライパンでベーコンを焼こうとしていた。

今日もまたシルウァヌス家の一日が始まる。

「兄さん、何か手伝う?」
「そうだな、テーブルの上を拭いておいてくれか?ヴァン」

僕は蛇口から水を出してフキンを湿らし、テーブルの上を拭いた。

外ではまだガラスの割れる音がしていた。
 
 
シリウスは手際よくテーブルの上に皿を並べ、パンの入ったバスケットを真ん中に置いた。

「早く食べなさい。学校に遅れるぞ」

ヴァンは学校になど行きたくなかった。だがシリウスには分かったと言うしかなかった。

パンをナイフで半分にし、その上に焼きバターとベーコンをのせ口に運んだ。

頭も体も完全に目が覚めている。
ヴァンは食事を終えるとごちそうさまも言わずに2階の自分の部屋へと戻った。

「休めばいいだろ」

また出てきた。

「仮病でもなんでも使ってさ、休もうよ」

何の意味もない自分との自問自答。僕の中の僕。
こいつは僕が一人になるといつも出てくる。

「でも分かってるんでしょ?結局僕は君の中の存在。君が考え出した産物。もう一人の僕でもなくもう一人の君でもない。ただ君が...」

だまれ!!

ヴァンは自分の心に一喝した。

「...なんだよ...君が僕を作ったくせに...どうせすぐ僕を呼ぶことになるんだ......」


ヴァンは学校のフードに着替えふと鏡を見た。

そこには小柄な体。そして髪が白の変わった少年が写っていた。

やっばり仮病を使っちゃおうかな。

ヴァンは一瞬そう考えたがすぐに頭から消した。

ヴァン=シルウァヌスは今日変わるんだ。昨日とは違う。そう違うんだ。

そう頭に言い聞かせヴァンは下におりシリウスにいってきますを言って外に出た。

今日こそ変わる。



こんなことを考えながら一日を始めようとするのはいったい何回目なのだろう。
ワンワン!!

家の前では犬のシュバイツが嬉しそうに尻尾を振って待ち構えていた。
シュバイツはシリウスが3日ほど前に拾ってきた子犬だった。
シリウスは優しい性格なのだがはっきりいって甘すぎる部類だとヴァンは思っていた。
この前も怪我をしているといってイノシシを家に連れてきたことがあった。
勿論イノシシはうちで飼えるわけもないので怪我が治るまで家におき治療が終わったら山にかえすことにした。
シリウスは山でいじめられたらどうするなどと言ってイノシシを山にかえすのに批判的だったが、村の住人に匂い等の苦情が出ていたため渋々言うことを聞いてくれた。


シュバイツの背の毛は黒く、他の部分は灰褐色の色をしていた。

シュバイツは餌をねだるようにヴァンのもとへやっきた。ヴァンは腰を下ろしシュバイツの頭を撫でてやった。
「君はいいよな学校がなくて。人間はなんで『学校』なんて意味のないところに行かされるんだろうね。何が義務だよ。こっちは行きたくないのになんで...」

「おぉい!シルウァヌスー!」

道の向こうからダミ声が聞こえる。そこにはいかにもガキ大将と呼ぶにふさわしい風貌の少年が立っていた。

ビルだ。横には子分のバートンとダッドがいる。

ビルは父親が村の役人をしているという理由だけで自分が偉いと勘違いしている、つまり典型的なバカだった。
しかしそれだけが理由で威張っている訳ではなくがたいの大きさも理由の1つであった。

ビルの身長は15才にして身長はゆうに180センチをこえていた。
身長もさることながら体重も100キロをこえる大巨漢、というよりデブだった。
こんなやつに身長158センチ、体重41キロの華奢な体系のヴァンが刃向かえるはずもなく毎朝荷物持ちをさせられていた。

だが勿論荷物持ちを断れない理由はヴァンの気弱な性格にもあった。
ヴァンは他の子ども達と比べて性格がかなり後ろ向きだった。

別にひねくれ者というわけではない。ただ悲観的で臆病な性格だったのだ。

ヴァンは学校でもビルを筆頭にいじめにあっていた。
いじめにあう理由は色々な理由が重なっていた。

まずヴァンには小さい頃の記憶がなかった。
ヴァンには8年前にシリウスに拾われて以来の記憶しかない。

そしていじめられる最もの理由は髪の色だった。
ヴァンの髪の毛は何故か白い。病気というわけでもないらしくヴァンの地毛だった。

そのせいで他の子ども達はヴァンは年寄りみたいだと笑いはじめた。
中には気持ち悪いとさげすむ者もいた。

だがヴァンはシリウスにはこのことを話さなかった。

知られたくなかった。シリウスは優しすぎ、時に周りの人のためにならないようなこともする。
でもそんなシリウスがヴァンは嫌いじゃなかった。
むしろ尊敬の念をいだいているほどだった。

そんなシリウスに心配をかけたくない、そんな気持ちからヴァンは話せないでいた。

「おい早くしろよぉ」

ビルは僕の前にきて荷物をヴァンの前に差し出した。
ヴァンはうつむいたまま黙った。

『今日こそ変わるんだ』

何度そう思ったろう。何度そう誓ったろう。

「おい何やってんだよ!」
ビルは苛立ちはやし立てた。
「なんかこいつ睨んでませんか?」
横のバートンがにやけ大きい前歯を出しながらビルに言った。
「ホントだ。ビル、こいつ眼たれてるぜ」
もう一人の子分、ビルほど巨漢ではないが同じ身長くらいの背をもつダッドがそう付け加えた。

「なんだぁ?てめぇ俺を睨んでんのかぁ?」

「そ、そんなことないよビル」
僕は慌ててそう言った。

でも違う。僕はそんなことを言いたいんじゃない!
そう心に言い聞かせ拳を握りしめた。

「ぼ、ぼぼ僕は…」
「んだ!?」

ビルが鬼のような表情で睨みつけてきた。凄い迫力だ。
僕は足を震えさせ腰がぬけてしまった。

「おいおいなんだよ?何もしねぇのかぁ?」
ビルは高笑いをしながら言った。
「臆病者が」
と、バートン。ビルがいなければ何もできないくせに、とヴァンは心の中で毒った。

「お前もあの兄貴もだらしのねぇチキン野郎だな!!」
3人は大声で笑っている。
僕の中で何かが切れた音がした。

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