本編「〓Taboo〓〜タブー〜」@


[15]chapter:4-3


ラルの目に、一瞬だけ明かりが灯ったような気がした。
 
「君の家で...血玉髄を見つけた時から..君ら兄弟を疑っていた...」
「血玉髄...?」
「クッ..ハァ…ハァ…そ..僧侶が..予言や託宣などに用いる赤い鉱石だ...儀式の魔法陣を...か..書くときにも使われる...」
 
ヴァンは今朝ラルが最初に家に入った時、シリウスのデスクで赤い宝石を眺めていたのを思い出した。
 
「わ..私は..君が禁忌に関わっている線は薄い..と思った...」
「禁忌...?」
「ハァ…ハァ…ヴァンくん...今だから全てを話そう...ユスティティアとは..ただの国軍ではない...国軍の中でも特別な存在..なんだ...」
 
ヴァンは真剣になって聞いた。
「世の中には...人の踏み入れてはならない..領域がある...」
ラルは続けた。
「『死者蘇生』『時渡り』「不死」...他にもまだあるが..この事柄を全て総称して『禁忌(タブー)』と言う...」
「タブーー...」
「ユスティティアは..ハァ…ハァ…この禁忌を防ぐために作られた軍隊なんだ...一般には知られてないがな...」
 
ラルは一呼吸おき、再び話し始めた。
「君の家で見つけた血玉髄は..何故か削られたあとがあった...
私は..二人のうちの誰かが何かの儀式をしようとしているのではないかと...そう読んだ...
だが君と二人っきりで話した時...兄のことを話す君の目には...一片の曇りも感じられなかった...だから私の警戒は...シリウスに向けたんだ...
そして夜に、あのご婦人の子供のことを聞き...何か嫌な予感がした...軍の...勘なのかもな...」
 
ラルはフッと笑った。
「君は...シリウスのことを信じていたようだった...そのシリウスが..何かよからぬことをしているのかもしれない...
それをこの子が知ったらどう思うだろうか...
そんなものは火を見るより明らかだ...
君が一緒に行きたいと言い出した時も...なんとか理由を考えて...君を制止した...ハァ…ハァ…
 
君にシリウスのことを知らせないために...」
 
ヴァンは黙って聞いていた。
 
ヴァンはシリウスを信じていた。いやシリウスしか信じていなかった。それは絶対的なものだ。
その信頼を折られた気持ちは大きいだろう。
ヴァンは何故かこの時、昔のことを思い出していた。
優しかったあの日々。イノシシまで拾ってきた時。
色々なことがあった。
 
ヴァンは目から一筋の涙がこぼれた。
ラルは虚ろながらも優しい目をした。
「...男の子が..泣くんじゃない...少なくとも...今は泣いている時じゃない...」
 
ヴァンはそう言われるとますます涙が止まらなくなった。
さっきあれほど涙を流したのにまだこんなにも涙は出るのだろうか。
 
「君を...悲しませたくなかったのは...まだ理由がある...」
「え...?」
「軍人は...一般人に平等に接しなければならない...その点において...これは..いけないことだが...わ..私には..君と同じくらいの..妹がいるんだ...」
「妹...?」
「フフ...その子もまた君にて泣き虫でな...いつも甘えてばっかりだった...」
 
ラルの顔にはもう軍人としての厳格な表情はなく、一人の優しい姉の表情になっていた。
 
「ヴァンくん...」
「はい...」
「私はもう...ダメかも..しれない...」
「そんな...!」
「だが..いく前に...君に渡すものがある...」
 
ラルはフードの下から、剣を取り出しヴァンの前に差し出した。
 
「君が...戦わなければいけない時がきたのだ...」
「これは..朝の...」
「エクスキューショナー・ソード...国軍直属科学班が君専用で作られた代物だ...朝私がこの武器を構成する物質、『タブー』が普通の人の手にでは触れられないということを話したのを..覚えているな...?」
「は、はい...それで僕はそれに触れる選ばれた人間なんだって...」
「その通りだ..受け取れ...」
 
ヴァンはラルに言われた通り、剣を受け取った。
やはり軽い。
ヴァンにはなんの重みも感じれないと言っていいほどだ。
 
「だがな..その選ばれた人間にとっても..ハァ…ハァ…『タブー』に触れるのが難しいことのが多い...
そのために...その人に合うように『タブー』を加工するんだ...
みために反して君には重みを感じないだろ...?」
「は...はい...」
「私も『タブー』には触れることができる...だがその剣は私にはちゃんと扱えない...
私専用ではないからな...重く感じてしまうんだ...その武器を..真に扱えるのは...君しかいない...」
 
ヴァンは剣を見つめた。
 
──僕が…戦う……
 
それはつまり、
「僕が...兄さんを...?」
「......そうだ...」
 
ラルは静かにそう言った。
 
ヴァンはここで改めて恐怖を感じた。
恐怖で手が震える。
「あの人は...もう兄さんじゃないんですか...?」
「...自分が一番分かってるんじゃないか?」
 
ラルの一言が心に響いた。
容姿も、声も、シリウスなのに...自分の知っているシリウスはもういない。
 
いや、
 
最初からいなかったんだ。
 
「僕...こ...怖い...」
「今までずっと普通の男の子だったんだ...いきなり戦えと言われても難しいのは分かる...
だが..グッ...つ...」
 
ラルは突然血を吐いた。
当たり前だ。
この傷で喋ってられる方がどうかしている。
「ラルさん...!」
「グッ...ハァ…ハァ…もうなりふり構ってる場合じゃないんだ...こっちがやらねばこっちがやられる...!」
「に...逃げることは...」
「無理だ...森の周りには多分『暗幕』の結界が張られている...朝になるまで出ることはできない...」
「そんな...」
「もう戦うしかないんだ!ヴァン=シルウァヌス!」
 
「...む..無理だ..僕..無理だよぉ!!」
「ヴァンくん!!」
 
ヴァンは剣を持って森の奥へと走っていってしまった。
 
「ハァ…ハァ…ヴァン...くん...」
「見つけたぜぇ...ユスティティアのお姉さん...」
「はッ!」
 
ラルが後ろを向くと、そこには怪物の上にまたがるシンの姿があった。

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