〜第5章〜


[19]朝11時30分


男子はそのキスシーンを見ようと必死だったのだが、清奈が『ふん』と鼻息を立てて蔑すむように見ただけで、男子は皆小さくなってしまいました。

そういうわけで今の状況を説明しよう。

僕はプールサイドで、ビショ濡れになった体操服を重く感じている。
僕が立っている場所を左右から挟むように清奈とさくらちゃんがいる。
といったところか。
スクール水着を纏った2人の美少女に板挟みされている。さあ問おう。この状況で興奮しない男がいようか? いるわけ、ねぇ。

「ひ……引き分けでしたもんね。 じゃあ……私からで良いですか?」
「……」

さあ
チャンスだ相沢悠!

この返事に「うん」と答えるだけで……答えるだけで……うおおお!!

「待った」

返事をする為に息を大きく吸った瞬間、清奈が割り込んだ。

「なんでさくらが先なのよ!」
「いいじゃないですか! 私も長峰さんもするんですから同じですっ」
「全然同じじゃないわよ! だいたい私は泳いだけどお前は応援してただけじゃない!」
「そんなの、へりくつです!」
「お前もでしょうが!」
「きゃ……!」
「あっ……!」

ザッパーン!
2人が僕の目の前でもみくちゃになり、そのまま再びプールへ落水した。

「そうだ!」
「なにがっ……て!」

さくらちゃんが清奈から抜け出た。

「悠くんに決めてもらいましょう!」
「……なるほどね。良いこと言うじゃない!」

え?
僕が……決めるの?

「ねえ悠! どっちから先にするわけ?」
「悠くん、私からですよね?」
「違うわよ、私がさき……」
「い〜や! 悠くんは……!」

2人ともいつのまにかプールから上がっており、最初の状態に戻った。
そして、僕の顔に2人の顔が迫る。
近い、近いよ……!
理性がさあ、振り切れるからさあ、いいかげん……


ふにっ

ふにっ

ん……?
なに、この腕に感じる柔らかい感触はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!


近すぎるから!
当たってるから!
僕の頭は、清奈とさくらちゃん、どっちと先にキスするか、よりも、もっと重大で深刻な状態により麻痺しはじめた。

しかも、2人とも気づいた様子はない。

「ねえ!」
「悠くん!」
「悠!」
「どっち!?」
「どっちが先!?」


うああああああ!!!!

「2人同時なら文句ないだろうううう!!」

「え?」
「あれ……」
この時の僕はどうかしていたのだろう。
だってさ
もう、こうするしかないし。
多分、もうどうにでもなれ! とヤケになってた。


僕は

横から迫る2人の顔の後頭部に手を伸ばし、顔を僕の両方の頬に押しつけた。


瞬間


時が止まったような感覚が生まれた。

腕にあった柔らかい感触が腕から顔へと移った。

「……!」








「きゃあああ!?」

バババッと2人が僕から離れた。

さくらちゃんは自分の唇を手で抑えている。

「ちょっと悠! 今のはど〜ゆ〜こと!」
「ど……どういうって、これは〜そうだ、魔が差したんだよ! なんか一瞬ね、体がね、勝手に……」
「悠くんって……けっこう……大胆なんですね……」「さ、さくら!? いやだからこれは!」

しまったぁ!
今のは余りにも軽率すぎるぞ!
しかも、こういうキスはなんていうか、ムードを大切にして一人ずつじっくり味わうべきだったんだ!
それなのに僕ときたら!
一気に、一瞬で、しかも口じゃなく頬に!

僕、首つって死んでこようかなあ……うううう……。
「おっおまえは……見損なったわよっ! あんなので納得いくと思うわけ!? あれだけ必死で頑張ったのにぃ!」
うわ、清奈!
乗っかかるなっ……だっ痛ぁっ!

僕は清奈に押し倒されて腹の上にドンと座られた。

「な……長峰さん!? なんてことしてるんですか!」
「うるさぁいさくら! さくらはあれで満足なの!? いつまでもキスしないんだったら、私が無理矢理……」
「え、無理矢理っ……」

清奈の顔が僕の目前へと急接近!

「させません……よっ!」「はっ離しなさい!」
「私が先にぃ……!」


さくらちゃん、そこは
『悠くんが嫌がってるじゃないですか!』
が正しいんだよドゥユアンダスタン?

「わっわたし……ぬぐぐ……」

お互いが僕から顔を遠ざけようと再び取っ組み合いになる。
そう、僕も巻き込みながら。

「2人とも! 離れて! 離れないとちょっ……!」


手が、足が、太股が、腕が、脇が、そして胸が複雑に絡み合ってしまって一種のプロレス技をかけられているような状態になる。

ギブ! キブ!
誰かタオルを投げろ〜!
あっちこっちはっちぽっちでボティタッチされている僕に残された理性はごくわずか(既に1回発狂済み)
そのとき、
いつものように、いつものお方が助け舟を差し出してくれました。

《馬鹿者が!》

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