〜第5章〜


[11]朝8時38分


ここから体育館まで遠いんだよなあ〜。

清奈と生活を共にすることになったせいで、僕の体は昨日清奈と戦ってからずっと緊張しっぱなし。疲れてないわけない。

朝礼って立たなきゃダメだよなあ……。
立って眠る方法を今度絵夢にでも教わるかな。
以外と捨てたもんじゃないテクニックだと身にしみて思う。

「ねえねえ、なんで今日わざわざ全校集会なんてやるの?」
「新任の先生が来たんだって〜」

誰だか知らない女子達の声を聞きながら、僕はフラフラの足をなんとか動かして目的地に向かった。



え〜というわけでここは体育館だ。
体育館シューズを持ってくるのを忘れたのに気づく。もういい、靴下のまま入るか。

人混みは通勤通学ラッシュで十分だぞ。
昨日と同じく今日もずっと手を繋いでいた僕と清奈。慣れというのは怖い。
何とも思わなかった。(疲れてただけかもしれない)


「遅すぎだ! さっさと私の前に土下座して並ぶがいい貴様ら!」

なんで保健室のテレサ先生がここにいるかなあ?
大声すぎてマイクがキンキン鳴ってるよ。
突っ込んだら負けなのかなあ?
それに今、「整列して」じゃなくて「土下座して」と聞こえた気がしたが。
「おーっし! 全員揃ったな!」

テレサ先生の得意技。
誰に向けられたか分からない人指し指をビシッと突き出した。

「全校集会を始める! ここからは私語禁止だ! 喋った奴は私に罰金として1000兆円払ってもらうからな! 覚悟しとけ!」

本当にあの先生は大人なのかね?

「え〜と、なんだったっけな。そうだ! 今日からこの学校に ってそこのお前ーー! 携帯いじるな!」

前列辺りにいる男子を指差した。

「ったく……え〜っと、ああ、そうだ。今日から新しい先生がやってきたから、この場を借りて紹介する!担当は家庭科だ!!」

家庭科の先生?
確か今までの先生は……

よく覚えていない。

ただ、異常に影が薄かったことは覚えている。


「名前は……え〜っと、なんだ、アルフレ……? アリフル……? アイフル……?」

消費者金融かよ。
なんで新任する先生の名前を覚えてないんだよ、失礼すぎるぞ。

「え〜まあいい! とりあえずマイクを新任の先生に渡すことにする!」


ダンダンと随分大きな足音を鳴らしてテレサ先生はステージ横に入っていった。
「家庭科かよ、まあ別にどうでもいいよな」
「そうだよな〜集会サボればよかったわ」

そう、家庭科は男子が真面目に受けない教科のトップ3に入る。
最近は男も家事ができなきゃいけないとかなんとか言われているが、そんなことしなくて人間生きていける。

すると

マイクに足音が入ってきた。

この学校のことだからロクな先生じゃない。
でも、一応顔と名前ぐらいは覚えておいてやるか。












全校生徒が固まった。





確かに、予想通り、まともな先生では無かった。
だがこれは、変の方向が変だ。

だって……

白いエプロン、フワフワのカチューシャを付けて、一面中につけられたフリル。水色の髪。

そして、容姿最高クラス。

つまり、目の前にいるこの人は――

「アルフルン=エレッド=リリウスです。今日からこの学校の家庭科の授業を受け持ちさせていただきます。皆さん、よろしくお願いしますね」

手を前に重ねて丁重に礼をした。




メイドさんーーーー!!??


「う……わ……ほ……」

一番動揺を隠せていないふっくん。
そりゃそうだ。
こいつにメイドを語らせて右に出るものなどいないのだからな。

「本物……か……?」

コスプレとは思わない。
つまり、正真正銘のメイドさん。
ていうか、いるんだ……。

「今日から早速、授業をさせていただきます。なるべく早く皆となじめるように努力させて頂きますので、どうぞ宜しくお願いします」

再び丁重な挨拶。
滅多にわくことのない拍手が起こった。

当然ながら、男子には超がつくほどの、好印象。
染まっている、否、かかわらず全ての男子が湧いてますね〜。

世も末って言うべきなのか。
それともまだ学校は捨てたものじゃないと言うべきなのか。

どっちにしろ全校生徒のボルテージが上昇したことは確信できる。うん。







「おっどろいたわ〜」

原田が何故か僕の席に座って口を開いた。

「当たり前だろ。メイドを先生にする学校なんて世界を目に向けても無いだろうよ」

僕はと言うと、男子の中では少数派に値するだろうが、頭痛を患っている。
昨日から有り得ないことが次々と起こっている。
僕はそこまで順応能力は高くないんだぞ。

ニュートンをなぞらってか知らないがリンゴをシャクシャク丸かじりしながら物理の先生が入ってきた。
寝ようと思ったのに、思わぬサプライズのせいで目はギンギンギラギラ冴えていた。

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