〜第5章〜


[10]朝8時05分


「こんなもの、勝手に受け取らないで」

清奈はそのアクセサリーを自分の腕につけた。

「え……ちょっ、ちょっと……」
「なんか文句ある!?」

凄い剣幕だ。
ああ、やばい。
タイムトラベラーになるってだけで十分非現実的だって言うのに、学校生活にまでカオス化し始めるのはっ!

「悠、一つだけ言っておくけど」

高ぶる怒りから、冷気へと変わった。

「空川さくらには今後、近づいちゃダメだし話すのもダメ。分かったわね?」
「なんでそんな無理難題を言い通そうとするんだよ」

何故か分かってる。
それでも聞いた。


「そ、それはっ……」

なんとかしてこの状況を脱するため、苦し紛れでこの一言を出したが、うまくいった。

清奈が躊躇っている間僕はダッシュで外に飛び出す。

「あ、こら! まだ話は終わってな……!」


逃げ出そうとしたが、俊足の清奈には勝てず、再び背中にのっかかられた。

ドシンと地面が揺れた。

「いい、分かったわね? これからはさくらと関係を絶ちきりなさい。返事するまでどかないんだから!」

うわ、どうしよう、
いかにせむ いかにせむ
ってふざけてる場合じゃない。
《馬鹿者が》

フェルミが助け舟を差し出してくれた。

《貴様は言ったはずだ。空川さくらとも正々堂々と戦って勝つと。フェアではない、まあ貴様は不得手分野故に、焦っているだけなのかもしれないがな》
「でもフェルミ。わざわざさくらは悠にプゼレントをあげてるのよ? 不必要に媚びるのは嫌いだって私言ったのに」
《ユウの家に押し掛けた貴様が吐けるセリフでは無いと思うが》
「ちょっと……私は悠の安全を確保するために」
《嘘をつくな》

プレゼント、と、まともに言えない清奈が少し怒る。だが清奈、鈍感な僕でも分かるぐらい、本心を隠せてないぞ。

《いつまでユウの背に座っているんだ。貴様であろうと空川さくらであろうが最後に決めるのはユウだ》

もっともな意見だ。
清奈は取りあえず納得してくれたのか、背からゆっくり立ち上がった。

「……でも、私は、悠がさくらと一緒にいるのは……」
《重要なのは相手を倒すことでは無い。己を磨くことだ》
「己を磨く……」
《相手を負かすことが勝ちに成るわけではない。つまり貴様は、悠にとって空川さくらよりも大きな存在になりさえすればよいのだ》

フェルミのお陰で助かった。
このまま永久に学校へ行けなくなるな、と本気で感じとったほどだし。

「分かったわよ、フェルミ。でもね、もし空川さんが私を倒そうとしたその時は……私も容赦しないで戦うから」

間違っても剣は抜くなよ。







さて学校へと向かって歩いている途中だ。
すぐ左に清奈がいて、僕の右腕に抱きついている絵夢。
僕のことを知らない人が見たら、どんな女たらしかと誤解されるか分かったもんじゃない。

僕と同い年ぐらいの、別の高校の生徒たちは、みんな例外なくこちらを見る。
いい年した年輩の方まで。

清奈は気づいているのかいないのか、全く気にした様子は無い。
絵夢はというと、こちらを見る道行く人に手を振っている。
僕は選挙演説を行っているわけじゃないんだぞ。
なに、この、羞恥心を扇ぐ状況。








やっと、やっと
着いた。

朝から急激に疲れを露にする僕。

僕と清奈が同時に教室に入って、それぞれの席に座る。清奈との席は多少離れている。それも今は助かった。他人の視線というものがこんなにも痛いものだとはな。軽くお笑い芸人を尊敬するよ。


「よお、悠にぃ。随分と今朝は元気がねえな」
「ああ、ふっくん。次の物理の授業、後でノート写させてくれ。僕は睡眠体制に入る」
「ああ、分かった。昨日は眠れなかったのか? そうだよなあ、さくらちゃんからプレゼントを貰ったんだしよ〜」

ああ、そうか。
こいつらは僕が、さくらと結びつくのを望んでいる。

「はあ〜いいよなあお前ばかり。お前とさくらが……」



今朝感じた殺気、カムバックアゲイン。

「っえ……?」

ふっくんは見たはず。
清奈の顔を。

「なあ……なんで今日、長峰さんから尋常じゃない殺気を感じるんだよ」

てめーの頭で考えろ、と言っておく。

すると

「おはよー!」

カバンの荷物をドサドサいわせて大声を出しながら教室に入ってきた瀬戸さん。
チョークを手にして黒板に大きな字で

【8:30〜全校集会、体育館へ】

と書いた。

「というわけだから皆体育館に直行!」

忘れた頃に始める全校集会。
早く寝たいのに……めんどい。


でも、この何気無い朝礼によって
眠気がすっかり覚めてしまうということに一体誰が予想できただろうか?

できないよねえ。


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