〜第4章〜 黒の男


[03]朝7時56分


僕は占いはどっちかっていうと信じない人間だが、参考になるかも知れないと思い、足立さんにこのことを聞いてみることにした。

まずは……

「今から1年後の未来がどうなっているかを教えてほしいんだ」

僕がタイムトラベラーになる前にパルスが見せたあの滅び。あれはちゃんと回避出来ているのかを知りたかった。ネブラを倒して行くことであの未来を先延ばしにしていけるようだが……。

「未来は、貴方に明確に伝えることはできません。それが占いの掟ですから……」

「それでもいい」

足立さんは再び5円玉を文字列の上に垂らし、その5円玉の行方を目で追っている。

小さな声で、呪文のようなものを唱える足立さん。

「……見えます」

急に足立さんがその一言を口に出す。

「……血が」

「え?」

血……!

「こ……ここは……な……なんて……こ……ま……まさか……」

「足立さん? 足立さん!」

危険な気がした。
まずいと思った。

僕の呼び掛けで足立さんは我に返ったように、僕の方を向く。

「……私の……術が失敗したのかもしれません。有り得ない光景が……目の前が……!!」
「分かった。ごめん、足立さん」

足立さんの占いはペテンなんかではないらしい。足立さんの見た光景は僕が見たのと同じ。そして、僕はその光景は術の失敗なんかではなく、真実であるということを知る数少ない人間だ。

「取り乱してしまいました。とにかく、後でもう一度未来を霊視しましょう。先程は、【有り得ないもの】が見えていましたから」

「いや……無理はしないほうがいいぞ。あ、そうだ。今度は過去なんだけど」

「過去……ですか」

「長峰さんの過去を見て欲しいんだ」

「長峰さんが産まれてから、現在までの間を、ですね?」

「うん」

「分かりました」

足立さんは何故そんなことを知りたがるのか追求しなかった。それはそれで都合がいい。

足立さんは文字の書かれた本を上下逆さまにして再び同様の儀式を行った。


「長峰さんの……過去」

見えたようだ。

「断片的にしか見えません、見えたものを単語で言います」

「分かった」

「……見えました。風車……田園……麦わら帽子……3人の男……」

足立さんは次々と言う

「剣……畑……わらしべ………」

わらしべ、から長い沈黙が起こる。
その沈黙を破った単語が……
「……黒」

更に続けていく。

「夕日……涙……雨……ペンダント……」

僕は、携帯のメモ帳で足立さんが言った言葉を打って残すことにした。

「終わりました。最後に見えたのは雷です」

雷、と携帯に打ち込む。

「見てて気分のいいものではありませんでした。何か重要な部分が飛んでいたように思えます」

重要な部分が飛んでいる、と最後に打ち込み、保存ボタンを押した。

「長峰さんと……剣。どういうことでしょうか、長峰さんは剣と非常に相性がいい。長峰さんは剣のコレクターでもしているのかもしれませんね」

「……そうか」

まさか清奈が剣士だというとこまで見破られるかも?それは……まずいな。

「剣と相性が良いのは、清奈の性格と関係があるからじゃないか?」

取り合えずこう言った。
ごまかしてみる。

「性格……? 確かにそうかもしれませんね。長峰さんは、そう……丁度剣のように輝やかしい容貌、そして、あらゆる者を貫く強さ。他の人には無くて、長峰さんにしかない何かがある……」

僕も同感だ。
清奈の使う武器は、銃でもナイフでも杖でもない。
剣が清奈を清奈たらしめるものだ。

「私は……産まれて初めて」


急に足立さんが口を開いた。

「長峰さんを見て、私は心から尊敬できると思いました。」

「尊敬できるような……人か」

「はい。私は今まで生きてきて、沢山の人に会いました。実は私……足立家に代々伝わる秘伝の薬を飲んでいるので、今年で43歳になります」

「ええ!?」

「信じて貰えないかもしれませんが、世界には魔法が使える家系が、僅かな数ながら存在します。私達足立家もその家系の一つなのです」

「ふ、ふ〜ん……」

確かに信じられない話だが、現にタイムトラベラーというものになっている僕は、なぜか簡単に信じることができた。

「ですから本来、私は長峰さんよりも年上です。しかし長峰さんは私よりも大人です。多少気の強い所はありますが、感情に流されず冷静に物事を考えるのは、容易に出来ることではありません」

「そうか……って、魔法が使える家系だってこと、喋っちゃって良かったのか?」

「駄目に決まってます。無関係の人に知られたら一族を追放されます」

「え……?」
「……」

沈黙―

「……あ」

足立さんは目を見開く。とても重要なことに気づいたらしい。
急に椅子から立ち上がる。上にあった円柱状のペン立てが転がる。

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