〜第4章〜 黒の男


[20]夕方6時49分


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痛い、まだ痛いわ。
全身が筋肉痛になったみたいだ。マジで今は1ミリも動きたくないのだが、いつまでも屋上でジッとするわけにもいかない。絵夢の奴も晩飯を待ってるだろうからな。

「じゃあ相沢くん、バイバイ」

「うん、ハレン。また明日」

校門でそれぞれ逆方向に帰宅する僕とハレン。
日は落ちても雨は降り続けている。
もう夜だ。
車のヘッドライトが降り注ぐ雨をいっそう際立たせる。

駅にはすぐについた。
駅の中に入り、傘を畳んでいつも通りに改札を通って電車を待つ。


電車の中
今日は椅子に座れた。
この時間で椅子が空くことはなかなかない。体が悲鳴を挙げている僕にとってはまさに天の助けだ。

何気無く携帯を取りだし、いろいろ触ってみる。
新着通知はとくになかったが、何をするでもなく適当にいじっていた。

すると

メモ帳に、今朝打ち込んだ言葉を見つけた。

その言葉は
魔法が使える足立さんが、清奈の過去を断片的に示したもの。

風車 田園 麦わら帽子 3人の男 剣 畑 わらしべ 黒 夕日 涙 雨 ペンダント 雷 重要な部分が飛んでいる


やはり、今朝見た夢は清奈の過去だったのだろう。
そう考えれば、風車と田園は当てはまりそうだ。

そして清奈を表す言葉もある。剣や、雷といったものだ。そして、黒。

黒は、やはりネブラだろうか。
だとしたら、ネブラはあの時の清奈と何かの関わりが……。
そしてペンダントは、タイムトーキーのことに違いない。

しかし、単語だけでは何も分からない。
それ以上は何も繋がらないのだ。さらに、重要な部分が抜けているとなればなおさらだ。ピースが欠けたジグソーパズルに興味は持てない。

「なんだろうな。……やっぱりダメもとで清奈に聞くしか無いのかなあ」

やっぱり久しぶりに座る電車の座席は心地いい。
子守り歌は、カタンコトンと規則正しく鳴る音。
目を閉じ、うつらうつらと意識がまどろんでいく。

でも次の駅で降りなきゃいけない。
ああ、こういうときに限ってこれだ。いっそ僕の家の前まで電車が来ればいいのに。

今日は晩御飯作ったらすぐに寝よう。

でも明日の英語の予習しないとなあ……
いやいや、休養を激しく主張しているこの体で勉強しても無理だよな。

扉が開く。

いつになったら止むんだろう、この雨は。
ギルガメシュ叙事詩のおとぎ話、ノアの箱船を思わせる。
世界が沈んでいって
全ての動物の雄と雌を乗せて後は皆流されたという。きっとその中に乗ってた人間はアダムとイブだ。
世界がリセットボタンを押したら、そうなるのだろうか。

そんなリセットボタンを
今手をかけているネブラがいるなんてことに、僕はまだ気づかなかった。



「ただいま」

「お兄ちゃん遅いよ〜。さてはあの女の子とデートしてたんでしょ」

「絵夢、おまえなあ……」

僕はこいつを責めるべきなのか誉めるべきなのか分からない。

こいつのせいで、いや、こいつのおかげで、か?
さくらちゃんとの距離が不意に近くなってしまったのだからな。早く寝るぞ、早く。

「ちょっと待ってろ。すぐに晩飯作るから」

そういって台所に向かう。
僕が床についたのは、夜の10時ごろ。それで僕の一日は終わった。





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