〜第2章〜 扉


[20]2000年3月9日 午後9時30分


「じゃあ今度は…

こちょこちょこちょこちょこちょこちょ!」

その少女は背中をくすぐり始めた。

「やめなさい!」

私はその子を(姿は確認できないものの)振りほどいた。

「うわ。」

しりもちをついた。

「ひどいな〜お姉ちゃんは。ちょっといたずらしただけじゃない。」

「……それより、お前は何者だ?」

「あたし?あたし名前無いんだ〜。でも、あたしが今よりももっと小さかった時から、【ネブラ】って呼ばれてるけど。」

《な…!》

「………。
じゃあ…あなたはネブラというわけね。」

「そうだよ。でも、あたしのおかあさんやおとうさんも、友達もみ〜んなネブラって言われているから、あたしの本当の名前じゃ無いと思うけど。」

「名も無きネブラ。お前はいずれ私に消される。」

「消される?消えるってどういうこと?」

「世迷い事を。説明するにも及ばないわ。例えお前が幼い少女だろうが私は手加減しないわよ。」

「え?お姉ちゃんと戦うの?なんで……なんで?」

「………?」

言っていることが噛み合わない。何故戦うって?お前達は秩序を乱すから淘汰され……







いや、まさかこの子は。
「お前、私は一体だれだか分かる?」

「…?タイムトラベラーの…たしか…せいな…だよね?」

「そう。じゃあさっきのピエロは?」

「あたしとおんなじネブラでしょ?名前は知らないけど。」

「今さっき、私とそのピエロと一緒に戦っていた所を見てた?」

「うん。途中からだけどね。」

「何故私とピエロが戦っていたか分かる?」

「え?う〜ん。分かんないや。」


《どうやら彼女は…。》

「そのようね。」

あの子はネブラだが、タイムトラベラーが敵だということを知らない。

「ねえ、あたし……もう帰ってもいい?」


「どうする、フェルミ。あのまま見逃すの?」

《奴の本体は月にいる。攻撃する意思がなければ問題無かろう。》

「ね〜難しい顔してなにしてるの?男の人も近くにいるみたいだけど。あたしそろそろ帰らなきゃ。」

フェルミの声が…聞こえている?

「…好きになさい。」

「好きにしていいの?じゃあ帰るね、バイバ〜イ。」

月が眩い光を放ったとおもった次の瞬間、元の夜空に戻っていた。


あの子…侮れない。

ネブラが何であるかを奴は知らないでいるが
月に入り込んだり、私と悠とハレンにしか聞こえないはずのフェルミの声を聞き取ったり…。
まだ善悪の区別もできていないような幼い子供…。

できれば敵に回したくないわね……。





――――――――――――




「気配が消えました。どうやら終わったみたいですよ。」

ハレンの声を聞く。
僕の悪い予感も、ただの気のせいだったようだ。

「ふう……。これで一件落着ってとこ…なのか?」


「そうですね。ネブラが消えたらわたし達の仕事は終わりです。すぐに先輩も戻ってきますよ。」

ハレンの言う通り、しばらくした後、清奈が降りてきた。


「清奈。大丈夫だったか?」

「見ての通りよ。分からない?」

「あぁ……まぁ、そうだけど。」

見るからに余裕の仕事だったようだ。本当に何もなかったんだろう。

《多少、ネブラの予想外の策にはまったがな。少しネブラを軽く見ていないか?セイナ。》

「…………。」







うっ…!
今、とても凄い気配が…。清奈…もしかして怒ってる?

「……そんなわけないでしょ…フェルミ。私は…奴らを完膚無きまでに叩きのめすから、そういう態度をとっているの。」



清奈……。

清奈がタイムトラベラーになった理由って何なんだ?ネブラを……倒さないといけないという義務感からではなく、何かネブラに強い憎しみがあって、自ら名乗り出たのか…?

「なあ…清奈。」

「何?」

「清奈はなぜ、タイムトラベラーになったんだ?」

「……お前に話すようなことじゃないでしょ。」

「気になるよ。まるでネブラを憎んでい…。」

と、言いかけてセリフを止めた。

清奈の目が、

明らかに拒絶の色を見せている。

「それで?」

「…いや、何でもない。」


ハレンが小声で僕に言う。

「先輩の過去は、あまり触れないであげてください……。わたしにも話をしてくれないのでよく分かりませんが…誰にも知られたくない秘密があるらしいんです。」

「……。」

僕だけじゃなく、ハレンにも教えないなんて…。いったい何の秘密があるのだろうか。

「倒したことだし、もうここに用は無いわ。さっさと戻るわよ。」

清奈がフェルミを首から外す。

するとタイムトーキーから白い光が放たれ、グレームドゥーブルを包みこんだ。

その光が消えると、グレームドゥーブルにあちこち存在した傷がたちまち消え去り、完全に元に戻った。

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