〜第2章〜 扉


[15]2000年 3月9日 午後8時55分


え?鉄骨に飛び移るってどういうこと…。

って

せ……清奈さん、何やってるんですか?

なんと清奈は
高く飛び上がり、梁と思われる鉄骨に着地し、更に上に登っていくのだ!その鉄骨も僕の足幅があるか無いかの細さだ。
一歩足を踏み外したら…

僕は下を見る。






「なあハレン、これはちょっと…」

そのセリフを言い終わる前にハレンはもう飛び移っていた。

「……。」

清奈が目で僕に『来なさい』と指示している。もう流れ的に僕も行かないとダメらしい。

「分かったよ…。やればいいんだろ!やれば!」

一人でキレても虚しいな。僕は下を見ないようにして、おもいっきり助走をつけて、半分やけくそになりながら飛び上がった。

またも僕はアスリートびっくりの大跳躍を決めた。飛距離も十分……いや、飛びすぎた!

やばいっ!







頭に鈍い音が響いた。
当然だろう。
着地するはずの梁のもう一つ上の梁に頭をぶつけたのだから。本当にどーでもいいところで僕の特殊能力【ドジっ子属性】発動。

まあ何とか渡れたから良いだろ!?

「だ……大丈夫ですか?」ハレンが声をかけた。
清奈に至ってはかける言葉も無いらしい。ものすごく呆れた表情をしていた。確かに物凄く呆れられるな。

しかしここで休むわけには行かない。僕の体も要領が掴めてきたみたいで、スムーズに登ることが出来るようになった。
そして、天井まで後5メートルを切った所で

またもや清奈の足が止まった。

「…根元の歪みが増幅しています。これはもしや……。」
ハレンが言った。

清奈は目を閉じる。








「……来る。」

僕が上を見ると、
屋上の部分が斜めに傾いて見えた。
そういえば2007年のグレームドゥーブルも、そう見えていた記憶がある。その歪みは更に酷くなり、ついに空間そのものが渦のようにねじまがる。

「強力なのが来るわ。ハレンはこいつを安全な場所へ送って。」

「先輩一人で大丈夫ですか…?」

「今は私より悠の心配をしなさい。」

そういう会話が行われていた。どうやら僕は戦線を離脱することになるらしい。

清奈が強いことは分かっている。僕とは比べものにならないほどに。僕がここにいても清奈の邪魔になるだけだろうし、僕自身もこれ以上はここにいても無意味だと自覚している。

けれど、何だろうか。

この悪感は………。
「相沢くん。それじゃあ…行きますよ。」

「………。」

本当にここで引き返していいのか。
不安が尽きない。何故なのか…。
僕は清奈の目を見て、いつのまにか安堵を見いだそうとしていた。

「早く行きなさい。」

清奈の一言が僕の耳に入る。

「…………あぁ。」

それだけの返事をして、僕はハレンと下へ降りていった。

まだ安心できる気持ちではなかった。でも、まさか清奈が負けるわけないと思っていた。そう自分に言い聞かせたのだ。







登るのに何時間もかかった気がするのに、地上へ降りるのは本当にあっというまだった。僕とハレンは地面に足をつけ、グレームドゥーブルから少し離れて屋上を見つめていた。空は雲に覆われているからか星も月も現れず、辺りを照らすのは工事現場の側にある埃のかぶった電灯ぐらいのものだった。
その中でそびえたつ、摩天楼。その屋上に清奈がいるのだ。

「なあハレン。本当に清奈は大丈夫なのか?」

「…心配ないですよ。先輩は今まで幾度となくネブラと戦いましたが、どの戦いも負ける要素なんかこれっぽっちも見あたらなかったです。」

ハレンは僕がタイムトラベラーになる前から清奈と一緒だ。
だからハレンの方が清奈のことをよく知っている。
僕が気にかけているこの不安はただのおせっかいに過ぎないのだろうか…。

その瞬間、屋上で爆発音が聞こえた。その音は雷が落ちた音だった。朱色の電撃が空を切り裂いたのだった。



――――――――――――


悠とハレンは戻った。
必然、私一人がここに残った。

「ネブラの動きは?」

《感知されない。あくまで向こうもこちらが来るまで動かないつもりなのだろう。》

「そう…。なら、その策に敢えて乗ってみましょう。」

《罠があると思うが?》

「分かってる。でもあの程度のネブラなら出す罠もたかがしれているでしょうし、ここでこんくらべをしても埒があかない。」

《……いいだろう。念のため防御壁は張らせてもらうぞ。》




清奈は上を見て、人指し指で金網を指す。

「プレスト。」

そういうと
空が一瞬だけ明るくなって、屋上に落雷が落ちた。

大きな爆発音が沈黙の夜を破り、その衝撃波が私を押しだそうとするが、私にとってはそんなものは無意味だ。唯一その波に従った私の黒髪とマントだけが後ろになびく。

私は落雷地点に人が通れる程の穴を確認して、そこに向かい飛んだ。

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