〜第2章〜 扉


[01]夜7時11分


僕は、いや普通に日常を過ごしているのなら誰もがそう思うことなのだが、この世界に魔法とかがあるなんてことはこれっぽっちも思っていなかった。
故に無論、某有名青色猫型ロボットみたいに空を自由に飛んだり、オモチャの兵隊を守護につけたり、手軽に世界旅行が楽しめるピンク色のドアとかは有り得ねーって思うのが普通だろう。(きっと観光業者は潰れないように必死に努力するのだろうな。)
もちろん【タイムマシン】なんて物はもってのほかだ。現実に無いと思ってた。それが普通のはずだ。あったならアインシュタインも飛びあがるだろうさ。
しかしこの目の前にいる女性は、淡々と、次々と常識を破っていく――


「貴方は、私との契約が認められた。貴方は此を受理する者か?」

いきなりこんなことを言われた。

「け……契約って何だ? それに……ここはどこなんだ?」
「驚いた……。貴方はタイムトラベラーでは無いのですか?」

驚いたのはこちらのほうだが。
タイムトラベラー?
え?

「困りました。貴方は一般人ですか。しかし私の存在を知った以上は、どうしても契約しないといけないのに……」

「だから……契約って何だよ?」
「分かりました。私が説明しましょう」

そこから女性は長々と喋り始めた。

「私の名前から話をしましょうか……。私の名はパルス。タイムトーキーと呼ばれるもののひとつです」

「タイムトーキーって?」

「分かりやすく言えば、時間転移能力を持つ妖精、つまり私ですが、その妖精が込められた石のネックレス、すなわち今貴方が持っているそれのことです」

僕はネックレスに目を落として見る。

「この中に…君が?」

「そうです」

しかし、いきなりそんなこと言われても信じがたい。それが本音だ。パルスはその本音を感じとったのか、
「今から話すことは現実味を帯びていないものばかりです。しかし、私は事実でないことは一切喋りません。全て事実であることを忘れないでください」

わざわざこんなことを言うぐらい、不可思議な事を喋るのだろうか?

「先ほど申し上げましたように、私はそのタイムトーキーの中で眠っていました。私と正式に契約する人を待つためです。そして私の契約者に、貴方が選ばれました」
「だから、契約って何なんだ?」

パルスは僕と視線を合わせて言った。

「私の力が貴方の物になる契約です」
「君の力が僕に?」
「私と契約すれば、貴方は新たなタイムトラベラーの一員になり、時を渡る能力を得ます」
「タイムマシンみたいに……過去や未来に行けるってわけか……?」
「はい。ただし……タイムトラベラーとなった以上は、貴方にある【宿命】を背負って貰わなければならない。」

宿命

「宿命って何?」

するとパルスは、少し悩んだ様子を見せる。

「これについては、私も話すことはいたしかねます。貴方がタイムトラベラーになる、ということに同意しない限りは……」
「ああ……そうか」

ならいい。そこまで重要なことでも無さそうだし。進んで聞こうとまでは思わない。それよりも今の僕にとっては、早く帰りたいと思っている。
そんななか、僕の頭に一人の少女が浮かびあがった。

「タイムトラベラーっていうのは沢山いるのか?」
「26人います。各々が別の時間の別の場所にいるので、全員が集結することはまずありません」
「もしかして星影ハレンっていう女の子も?」
「ご存じなのですか? 確かに星影ハレンは今から124年後、2131年10月7日に契約したタイムトラベラーですね」

え?
じゃあ今日見たハレンは、本当は124年後の人間なのか?
「ハレンは使命を果たすために貴方が言う現在、彼女でいう124年前に時を渡りここにやってきているのです」
「何でそんなに未来から遥々とやってきたんだ?」

なぜ、2007年の【今】に。

「……それも、少し話しかねます。タイムトラベラー以外の人間が、知ってはならない事実があるのです」

なんだそりゃ。

「ふ〜ん。じゃあそろそろ元に戻してくれないか?」「……契約しないのですか……」
「いや、だって僕には関係無さそうだし」
「……」

パルスが少し
うつ向いた。

「私的な意見ですが……貴方にタイムトラベラーになってほしい」

え?

「あくまでも私的な意見です……。無視して頂いても構いません。ただ……タイムトラベラーになる素質が、今までの26人の中でも類を見ない素質がありますし……私の存在を知った以上は……契約して頂けると……その……嬉しいのですが……」

なるほど、
パルスは律儀な奴だ。
まるでタイムトラベラーになってくれって言っているみたいじゃないか。
あれ?

「……」

今、パルスの顔が赤くなったような?

「すみません。あまり凝視しないでくれませんか……」

あ、ごめん。

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