〜第1章〜 日常


[01]朝6時30分


物語は目覚めのシーンから始まることが多いが、この物語も例外ではない。

「う〜ん……」

掛け布団の中で携帯の目覚ましアラームが鳴る。某有名深夜アニメソングが睡眠中の沈黙を破った。手探りで携帯を探す僕。ようやっと見つけて携帯を開ける。

「はあ、もう朝か……」

設定した時刻、朝の6時30分きっかりだ。
とりあえず時間通りに起こしてくれた携帯に感謝の念を抱きながら、枕の反対がわにあるカーテンをサッと開けた。
朝日が薄暗い部屋をきらきらと照らす。
僕の部屋は、入ると目の前に大きな窓がある。右から左に一面に取りつけられていて、日差しがとてもいいのが僕の部屋のとりえだ。

さて、洗面台に行って顔を洗い、制服に着替えて、軽く身だしなみを整え、まだ寝ているアイツを起こそうとアイツの部屋に行く。

「おい、絵夢」

反応なし。まあこの程度じゃ起きないか。
絵夢は僕の妹だ。これで(エム)と読む。
妹なのだが、絶望的に目覚めが悪い。恐らく僕が起こさなかったら永遠に眠り続けているだろう。12時間眠らないと、人として生きていく為の機能が衰える。昨日は洗顔クリームで歯磨きをしていた。こんな妹が今日から中学生だから笑える。

歯磨き粉と洗顔クリームの区別ぐらいしろよ。同じチューブだけどさ。これからのコイツの人生を僕は兄として本気で心配している。

そんな心配をよそに、未だ寝続ける絵夢。絵夢を起こすには一般的な方法は通用しない。あらゆる限りを尽して来たが、未だに黒星の方が多いという状況だ。今日は……

目覚まし時計を耳元に近づけて鳴らす。それもアラーム音のではなく、ジリリと鳴るベルのやつだ。試しに鳴らしてみるとかなりの大音量。

「絵夢。 覚悟ぉ!」

それを絵夢の耳に押し付けた!

ジリリリリリリリリ!!











YOU LOSE

一分間続けたが起きなかった。諦めて部屋から出ようとすると……

「ふああ……。」

大きなあくびを一発して、絵夢が起きた。奇跡の大逆転だ。

「おはよ……」
「おはようじゃない。いつまで寝てるんだ、お前は」「だってぇ……眠いんだもん。本能に忠実に従っただけだも〜ん……Zzz……」
「ぅおい! 二度寝すんな!」



ようやく絵夢が起きて、僕は朝食と昼の弁当作りを開始した。
僕の父さんと母さんはあまり家に帰ってこない。
大人の世界ってものは大変だ。平日は僕が寝てから家に帰り、僕が起きる前に出発する。でもそんな両親でも必ず休日には帰ってきてくれるから好きだ。
父はエリート外交官、母は国際的に活躍する日本人医療協会だったかの会長で、二人とも激務の日々を送っている。近年の国際化社会に貢献していらっしゃるわけだ。
そんな訳で、僕と絵夢は二人で生活することが多い。

「全く絵夢……今日から新学年の新学期だっていうのに、そんなんで大丈夫なのか?」

軽くウインナーを炒めて、卵焼き器に溶き卵を流し入れる。

「おい。聞いてるのか?」

溜め息をつきながら毒づいていると

「………Zzz……」

「だーかーら起きろってーの!」



朝食と弁当が出来上がり、僕と未だ半分寝ている妹でご飯を……。

「絵夢」
「ん…にゃ…にぃ……?」「冷水で顔洗ってこい」
「ふぁ……は…い……」


倒れている象が起き上がるかのような緩慢な動きで、のろのろと洗面所に向かった。いつまでもあの調子じゃ、こっちまで眠たくなるってーの。
え? 語尾が変? 口癖だ、気にするな。



ベランダを見るといつもの光景が広がっている。
ちょうど新学期が始まる今日を待ちわびていたかのように桜が咲き誇っている。僕の家の裏手にはこんな見事な桜並木の通りがあり、通称「桜花通り」と言われている。

「兄ちゃあ〜ん」
「何だよ絵夢」
「この洗顔クリーム……泡立たないよぅ……」

僕は妹のいる洗面所に向かう。予想通りだった。僕は洗顔クリームと歯磨き粉を絵夢の目の前に見せながら言った。

「こっちが洗顔クリームで、こっちが歯磨き粉だ。分かるな? もう今日から中学生なんだから分かるよな?」
「大丈夫だも〜ん……あははは……Z」
「絵夢!」
「はっ!? 危ない危ない………」

歯磨き粉で顔洗うなよ。頼むからしっかりしてくれ、妹よ。

やっと絵夢の登校準備か終わり、僕は一緒に絵夢と家を出た。今までなら僕は絵夢より先に登校していたのだが、今日はそうするわけには行かない。僕の通う学校「五月原高校」は中高一敢校だ。そして僕は今日から高校生で、絵夢は中学生。今までは絵夢を置いていってもアイツは小学校に登校したが、今日からは通う学校が同じ。よってこれから学校までの道案内を任された訳だ。

「忘れ物無いか?」
「うん」

春のそよ風が気持ちいいが、僕の心は空っぽだった。

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