side story


[14]時を渡るセレナーデG




 彼らは何者なのか。

 非常に気掛かりではあるが、今は彼らの安否が先だ。
 通信ディスプレイを空中に表示させ、如月は口を開いた。

「こちら如月。相沢悠、長峰清奈。応答しろ」

 すると、通信相手を表示する画面に悠の姿が現れた。

『こちら悠です。駄目です。もぬけの殻でした』
『その上【キューブ】も奪取されています』

 二人からの報告に、如月の目が大きく見開いた。

「そんな、馬鹿な………」

 その口調からは明らかな動揺が見て取れる。

「とにかく、そっちへ向かう。二人は待機だ」
『はい』
『了解しました』

 通信を終了し、ディスプレイを閉じると、

「ネル、星影ハレンと一緒に研究室へ。すぐに追いつく」
「分かりました。行きましょう」
「はい」

 ネルはハレンを連れて研究室へ向かった。

 それを見届けてから、如月は音声通信を始めた。

「警備部ですか? 実は…………」


◇◆◇◆◇◆◇◆


 如月へ連絡してから数分後、今後の行動について話し合っていた悠と清奈の所へ、ネルとハレンが到着した。

「これは……一体何が………」

 酷い荒らされ様に、ネルフェニビアは思わず呟いた。
 清奈がハレンの元へ歩み寄り、彼女だけに聞こえるように言う。

「ネブラは“キューブ”を奪取したわ。このままでは、あいつらに兵器を奪われる。急いで古墳島への転送準備を………」
「その必要はない」

 彼女らの会話を遮って、背後からいかつい声がした。

「な、なんだ?」

 その様相に、思わず構えてしまう悠。
 清奈やハレンも怪訝な顔をして、警戒を露にしている。
 ネルフェニビアは、ただ呆然としている。

 彼らの目の前に現れた者達は、黒い武装服と黒い帽子で身を包み、手には黒光りする拳銃を持っていた。

「貴様らを重要人物として、警備部が拘束する。逆らうようなら撃つ」

 研究室にいる警備隊員は一斉に銃を悠達に向けた。

「死にはしない程度に威力がある。麻痺して気絶するだけだ」
「丁重な扱いかと思ったら、今度は手荒な扱いなのか……」
「この国の公務員は礼儀知らずのようね」

 清奈が小馬鹿にするような口調で言った。

 すると、隊長格の先の男が一言。

「どうやら真実を洗いざらい話してもらう必要があるな」
 直後、研究室内の雰囲気が一変した。


 一触即発の空気。

 悠達がそれぞれの武器を構え、ネルが不安な様子で見守っている。
 対する警備部の部隊は、相変わらずの殺気を見せている。
 その緊張が極限に達し、破裂しそうになったその時、

「警備部長。独断での行動は慎んでください」

 聞き慣れた声が通路から響いた。

「如月大臣の息子か……」

 部長と呼ばれた隊長格の先の男は、背に集中しながら如月に身体を向けた。

「不確定因子を排除するのは我々の仕事だ。邪魔をするな」
「確かに、内規で科学省職員並びに関係者の先見的行動権は認められている。」

 如月の目が細くなる。

「しかし、この者達は部外者だ。大人しく静観していろ」

 そう言うと、警備部長の顔の近くにディスプレイが現れた。

「それが大臣からの指示書だ。この者達の身柄は常に俺にある」
「…………いいだろう。我々は周辺警備に当たる。せいぜい裏切られないよう気張るんだな」

 警備部長は、嫌味を残すと部下を引き連れて行ってしまった。
 彼らの姿が見えなくなると、早速非難の声が上がった。

「いきなり人を疑うなんて酷い連中だ」
「そうですね。でも、向こうからしてみれば、信用できないも同然ですよ」

 悠の不満に同調しながらハレンは言った。
 清奈も頷いて言う。

「そうね。ただでせさえ、あの結界内に現れてしまったのだから」
『所詮奴等は人の子だ。真実を知らぬ者には言わせておけば良い』

 フェルミが悠達だけに聞こえるように言った。
 如月は、特に意味もなくネルの耳の付け根を撫でながらこう言った。

「さて、大臣の所へ行こう。ここは捜査部に任せてある」


◇◆◇◆◇◆◇◆


 所変わってここは警視庁の屋上。
 科学省から十数キロメートル地点にある場所だ。

 その屋上に彼らはいた。

「やりましたね、サラザール様」

 その黒衣のマントを風にたなびかせながら、アルベラが肩を震わせて言った。

「くっく。上出来過ぎるくらいに上手くいった」

 サラザールはその瞳に残虐な笑みを浮かべる。
 対照的に、彼の左側にいる黒金の鋼鉄騎士レヴェナントと、半魚人イビルは頭を垂れ、黙っている。

「お前達もよくやってくれた。さあ、シヅキ様へは最高の供物を携え、忌々しき時渡りどもには最悪の土産を渡してやろうではないか!」

 高らかな叫びが、真夜中の空に響き渡った。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 古墳島の地下にあるとある空間。
 そこに明かりとともにただずむ男がいた。
 するとその男の背後に、般若の面を被った一人の少女が現れた。

「ザイツ、妙な連中が現れたわ」
「分かっている。だが、我々がいるのはどこだ?」

 アリアの報告に、ザイツは焚き火の炎で自らの大剣を照らしながら言い返した。

「古墳島の地下………なるほど。ここで迎え撃つ気ね」

 アリアの目が、獲物を視界に捉えたような獰猛なそれに変わった。

「そうだ。のこのこと現れた連中をことごとく狩り、この世界に終焉をもたらす」

 ザイツの大剣は赤々と照らされ、まるで血を欲する業物にさえ見える。
 アリアはそれに目を細め、ザイツの隣に腰掛けた。

「科学省ではない妙な連中が“キューブ”を奪取した。残る一つは未だ見つからない。サーヴァントが目下捜索中よ」
「そうか。だが、すぐに見つかる。予言の書が示す事柄が正しければ、近日中にはな」

 ザイツはおもむろに立ち上がった。
 そして大剣を鞘に戻す。

「監視対象から目を離すな。終焉の終わりに相見えん」
「ザイツも、終わりなき闇とともにあれ」

 アリアはスッと立ち上がり、地上への出口へと向かった。
 ザイツは地下の奥へと歩を進めた。




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