side story


[12]時を渡るセレナーデE



僕は、マグナム銃を持つその男と、ねこ耳を生やした女の子の後に続き、巨大なヘリコプターに乗り込んだ。
そこには【Ministry of science and technology】と所々に文字か書かれている。中はヘリコプターとは思えないほど広々としていて、この時代の技術の高さを思わせる。
しばらく歩き、ヘリの中でもっとも大きな部屋に入った。そして

「ここで少し待っててくれ」

と言って、マグナムの男がその場から走り去った。

「あとネル。3人をしばらく任せた」
「分かりました、すぐ戻ってきてくださいね」

その女の子が耳をピコピコ動かして言った。
えっと……
さっきから凄く気になるんだが……




ねこみみ、モード!!

つけ耳じゃあ……無いよな?
すっごく気になるんだが、それは僕だけか?いや、ハレンもだ。
もの珍しそうな顔をして、そのねこ耳をジッと見つめるハレン。

「……? 私の顔に何かついてますか?」

首を横にかしげて不思議そうに聞く。
なんていうか23世紀の日本はこんなところも進化していましたか。
普通に可愛いですよ。

「え……いえいえ、なんでもないです!」

ハレンがニコニコスマイルでごまかした。

「ところで」

ここで清奈が口を挟む。

「さっき科学省と言っていたけど、何かの組織かしら?」
「えーと、あ! 耀君が帰ってきた!」

ヘリのコクピットから戻ってきたようだ。

「3人とも待たせたな。父上に連絡して科学省への入省許可をもらった。あと1時間程で着く」
「ありがと、助かるわ。この辺りは初めてだし、丁度右も左も分からなかったところなの」
「耀君。科学省のこと、説明してあげてくれませんか?」

にゃんこが言ったので、男は軽く咳払いをして話し始めた。

「分かった。科学省は、聞いて分かる通り国営の組織だ。主な仕事は、闇の勢力の殲滅。今から向かうところは科学省本部、俺達のいわば拠点といったところだ」
「闇の勢力……ね」
「じゃあ、さっきのフードの集団も闇の勢力と呼ばれるものなのか?」

続いて僕が訪ねる。

「その通りだ。もっとも、あれは有力な者の手下にすぎないが」

その男は見た目は僕と同い年ぐらいだが、セリフに威厳が感じられる。きっと僕よりも沢山の修羅場をくぐりぬけてきたんだろうな、と思える。

「ねえねえ、折角集まったんだから自己紹介しませんか?」
「ああ、そうだな。俺は如月耀だ。彼女はヴェリシル ネルフェニビア。ウルフの家系の者だ」

ああなるほど、獣っ娘か、と心の中で言った僕。

「はじめまして、長いからネルって呼んでください」

左耳を前に折り曲げて、ハレンのような優しい笑顔をこちらに向けた。

「あと……」
『アストラルだ』
「ん?」

今、誰かの声がした。
随分と重々しく、
いや、神々しいというべきだろうか。

「今の声は……?」
「ああ、今のは幻獣神アストラルの声だ」
『この世に現出はしていないが、このマグナムの中に肉体を置くことによって意思疎通を可能としている』

つまり、タイムトーキーのようなものだな。僕達にも聞こえているところは違うけど。

「僕は相沢悠、こっちが長峰清奈と星影ハレン」
《時を渡って来たということは伏せておきましょう。この時代に来ても、タイムトラベラーのことを明かしてしまえば時空に歪みが……》

そうパルスが言ったので、それ以上の話はしないことにした。

「この辺りは初めてなんですか?」

ネルが聞いたので、清奈が
「そうね、さすらいの旅人と思ってくれたらいいわ」「あ、もうそろそろ到着みたいですね」

ハレンが窓から外を覗いて言った。
巨大な建造物の上空で止まった。周りの建物に負けない豪勢な作りで、銀色の鏡のような光沢のかかった壁が、ヘリを写し出す。

『こちらNO.14。着陸準備完了』
『NO.14、着陸を許可する』

無線の声が鳴り響く。
ヘリコプターがゆっくり高度を落とし、屋上の着地地点に向かい下へと降りていく。







その頃、そのヘリの遥か遠くで人に在らざる者達が微笑していた。

「サラザール、情報は掴めたぞ」

自分の身長よりも遥かに長いマントを引きずってサラザールの背に向かう吸血鬼アルベラ。

「例の物は古墳島にある、ということ。起動に必要な鍵【キューブ】の存在。そして島を取り巻く乱気流の存在……。キューブは一つは科学省と呼ばれる所に存在するということ、情報は以上だ」
「……ではそろそろ行動を開始する。兵器を起動する条件を揃えなければ話になるまい。レヴェナント、イビル!」

さっとサラザールの側に現れた黒金の鋼鉄騎士レヴェナント。
そして緑とオレンジの、トカゲにも魚にも似た半魚人イビル。

「貴様達はアルベラと共に対抗勢力を抑え込め。殺しても構わん。私はキューブの捜索、発見しだい強奪する」

その瞬間レヴェナントとイビルは再び姿を消す。

「キヒヒヒヒ……ヒヒヒヒヒヒ……」

不気味な吸血鬼の笑い声が響き渡る。
そう、吸血鬼にとってこの街は最高の娯楽場。
逃れられない惨殺空間はコンクリートと摩天楼と満月で出来ている……血の色の満月が光り輝く。アルベラの長いマントが突如羽に変わったかと思うと、そのまま科学省の方角へ直進した。




科学省、大臣公務室。
そこに通じる扉を如月君がノックした。

「構わない、入ってくれ」
「失礼します」

ゆったりとしたソファが目の前に置かれ、そこに座っている白髪混じりの叔父さん。歳は50代後半といったところか。ご丁寧に、全員分のお茶と茶受けのお菓子が置かれている。机の中心には果物皿も置かれていた。

「まあ座れ」

如月君とネルを含めた僕達は目の前の男、聞いた話では如月君の父親、如月慶喜が僕達に着席を勧めた。

「まずは……息子が手荒なことをしてしまったことをお詫びしよう」
「父さ……大臣、あれは仕方が無いでしょう」
「大丈夫ですよ。さっき如月くんもネルさんも謝っていましたから」

ハレンが少しお茶をすすりながら言った。

「この辺りは闇の勢力の襲撃が度々ある。君達の安全が確保されるまで、ここにいてもらっても構わん」
「ありがとうございます。お心遣いに感謝します」

清奈が丁重に返事を返した。
すると

『地下研究室から通信です』
「おっと、すまない」

大臣は立ち上がり、ちょうど奥にあるコントロールパネルに向かう。
ボタンを押すと目の前のディスプレイに、若い女性が写し出された。

「どうした?」
『コード375です』
「分かった」

ディスプレイが閉じられた。

「君達を、オーバーサイエンス研究チームの所へ連れていこう。どうやら君達は科学的な武器の使い手ではないようだからな」
「オーバーサイエンス……ということは、魔法ですか? 地下に研究室があるなんて初めて聞きました」

ネルが少し驚いた様子で言った。

「そうだろうな。魔法は科学では越えられない壁だ。表には出ていない極秘チームだ」
「でも、なぜそんな所に?」

僕は席から立ち上がりながら言った。

「いやはや、研究チームがぜひとも君達から話を聞きたいらしい。君達のような非科学的な武器を持つ者が珍しいのだろう」







僕達はエレベーターで下へと降りていく。
そこから更に階段で更に下へと向かう。

科学省最下層部、特殊実験室。

《まずいことになったな》
フェルミが言う。

「何が?」

僕は如月君達に聞こえないように呟いた。

《我々が時を渡る存在だと知られれば、時間歪曲が危惧される》

現に清奈は、追い詰められたような顔をしている。
もっとも、いつも清奈の普通の顔を見ている僕とハレンしか分からない程度のものに過ぎないのだが。

「ここですか……」

大臣に続いて慶喜、続いてネル、如月君、そして僕たち3人が歩く。


左の壁には無数の書物があり、右手には机が数台並んでいる。

「厳重に保存していたはずなんですが……」
「周辺地域は捜索したか?」
「抜かりなく行いましたが未だに発見されて……」

何やら話をしていた官長とその部下と思しき人がいる。

「どうした?」

その二人に大臣が話しかけた。

「大臣、例の古代文明の遺跡の一部が失われたようなのです」
「どの部分だ?」
「古代ギリシャバロック式に酷似した、大理石の柱です」


大理石……!?
それって有山で見つけた……。

《恐らくネブラによる歪みの影響でしょう》

パルスが言った。

「すみません、如月大臣。少しよろしいでしょうか?」

清奈が3人の中に入った。

「どうかしたか?」
「その古代文明のことについて、もう少し話を伺いたいのですが」
「……機密事項にかからない程度なら結構だが」

「……?」

如月が少し不審そうな顔をした気がした、が。

「あっ」
「こらネル、勝手に触るな!」
「うう……耀君。ちょっと怖いです……」

くるくる回るオブジェをつんつん突つくネルを諭した如月君。

「現在調査中の文明なのだが、恐らく人類史上最古の文明ではないかと予測が出ている。古墳島と呼ばれている島で偶然発見されたのだ」
「古墳島……ここから遠くの場所でしょうか」
「距離だけを見れば遠すぎることはない。だがあの辺りは年中乱気流が吹き荒れていて、容易に近づくことができない」
「そうですか……」

清奈は、あまりにも突っ込むと怪しまれると判断したのか、それ以上話すことは無かった。

「長峰……清奈、だったな。興味があるのか?」
「はい、個人的に」
「そうか……話したいことは山々だが、これ以上の情報は関係者には伝えられん。調査が終われば、大々的に報道されるだろう。それまでしばらく待つといい」
「そうですね……」





所代わり……
ここは簡易休養室。
あの大臣が気をきかせてくれたおかげで、僕達それぞれに部屋を貸してくれた。簡易といっても、少しだけお泊まりするぐらいなら十分な程の広さで、生活に必要最低限なもののみならず、テレビや電話、更には何に使うか分からない電化製品までご丁寧についている。

僕はずっとバトルモードになりっぱなしのせいで、折角の白銀コートに少し汚れがついた。それを今軽く払っている所である。
すると
ドアのノック音。

「入るぞ相沢悠」
「その声は如月君か。いいよ」

ドアを開けて入ってきた。

「どうかした?」

僕が聞いてみる。

「いや……今は特にすることも無くなったからな。つまりは只の冷やかしな訳だが……まずかったか?」

「ううん、全然平気。むしろ僕と同い年ぐらいの男子と会うことが少ないから、なんか新鮮だなって思うしさ」

「そうか……まあそれは俺も同じ気持ちだ。この科学省じゃ、いるのは大人ばかりだからな」

ドサッ!

「ん?」

僕の携帯がコートから落ちた。

「携帯電話か」

如月君が拾う。

《……ユウ!》
「え?」

如月君は僕の携帯を手に取り、中の画面を見た。

「時計が止まっているじゃないか、故障か?」

あっ……!
そう言って如月君は僕に携帯を返した。
まずい……これは、バレたか……?

「随分珍しい型だな」
「あ……ああ! うん、いろんな人からよく言われるよ」
「相沢く〜ん!」

すると今度はハレンがドアから入る。

「あっ 如月君もいた! 大臣がご飯をご馳走してくれるって言ってますよ〜」

「いくか、相沢悠」
「うん……」

ハレンに連れられて、僕と如月君はその場を後にした。




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