第二章 動きだす運命
[06]第二三話
翌朝、如月は午前五時頃に目を覚ました。
ほんの二時間しか寝ていないのだが、睡眠は量より質という考えを持つ彼にとっては、そんな数字はくだらない文字列に過ぎない。
普段からこの睡眠スタイルなのだが、なぜか身体は倦怠感に包まれていた。
心当たりはあった。
だが、それは真夜中の戦闘ではない。
「………なんだったんだあの夢は」
思い出しただけでも気持ち悪くなるほど凄惨な夢だった。
虐殺。
一言で済ますなら、これ以上にないくらい的確な単語だと如月は思った。
焼き討ちに遭った集落。
燃え盛る炎の中で飛び交う怒号と魂の嘆き。
無力な者さえもが剣や魔法で屠られる光景。
夢だというのに全てが生々しく、死に行く人々の絶望に満ちた表情が脳裏に焼き付いて離れない。
「…………気が狂いそうだな。決して人を殺めてはならないというのに」
如月は、一度深く溜め息をつくと、医務室へ向かうことにした。
廊下に出ると、早朝勤務の職員たちが眠そうな顔をしたまま職場へと向かっている。
一部の職員はそうではないが、それは例外だ。
科学省が秘密裏に統括している武装隊の実力部隊の隊員は、ほぼ不眠不休で働いている。
どうやらその分、屈強な精神と肉体を持ち合わせているようだ。
ご苦労な事だ。
以前の如月ならそう思っただろう。
だが、今は仲間として心配してしまう事がある。
仲間とは大きな存在そのものだ。
孤独に慣れきっていた如月にとっては、これほどにも強力な誘引材料はないだろう。
「朝早くから好きな子の見舞いか?」
「………父さん、いや、大臣。冗談でも止めてくれませんか」
如月は歩きながら、後ろにいる父、慶喜に言い返した。
無表情でいる如月に対して、慶喜も歩きつつ、後ろからからかい口調で言葉を投げ掛ける。
「面白いから嫌だな」
「それでも大臣かよ……」
誰が聞いてもあきれてしまう返事に、如月は思わず本音を口に出してしまった。
「息子の行く末を案ずるのも父親の役目だ。何があっても責任は自分でとれ」
「言葉は真面目でも、心でニヤけている父親に言われたくはない。というのが息子の心境のようですが」
「知らんな」
しれっとした口調ではねのける慶喜。
そして口調そのものに真剣味が帯びる。
「ネルフェニビア君と共にいるのなら、自分で選択した運命を呪うな。そして目の前の現実から逃げるな」
「分かってるよ、父さん」
如月も真剣な口調で言い返した。
だが、慶喜は今一つ冴えない顔をして、
「こればかりはお前の言葉を聞いても安心できないな。まあ、全てはお前次第だ。頑張れ」
それだけ言うと、またどこかへ行ってしまった。
自身に自惚れる事無かれ。
以前、慶喜の言った言葉が如月の頭の中で反芻していた。
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