第二章 動きだす運命


[05]第二二話



 ここは世界と世界との狭間。
 その漆黒の空間に、般若の面を被った少女がいた。
 片膝を地面につけ、深く頭を垂れている。

「雷啼のバルザール、ただいま戻りました」

 すると、どこからともなく相手を見下したような女性の声が聞こえてきた。

『ご苦労。結果を報告しなさい』
「はっ。我らが仇敵、【業火の討ち手】は確かに人間界にいました」
『……………』

 求められた事を言ったにも関わらず、謎の声は沈黙をしている。
 それが無言の圧力となり、般若の少女は矢継ぎ早に追加報告を始める。
 言葉に少し焦りが滲んでいた。

「また奴には、【紅蓮の神】とその契約者が味方についています。さらにパンツァーが取り逃がした小娘も、確認されています」
『そう。では引き続き対象を監視しなさい』

 部下を褒める事もなければ叱責する事もなく、ただ命令を突き付けるだけだった。
 その口調には喜怒哀楽はなく、憎悪に近いものが込められていた。

「はっ」

 少女はもう一度深く頭を垂れると、立ち上がってこの漆黒の空間から出て行った。
 それと同時に、見下したような口調の女性の気配も消えた。
 次の瞬間、少女は自分の部屋と思われる場所にいた。
 般若の面を外す事なく、そのままベッドに腰を掛ける。
 バルザールの宿る刀は勉強机の上に置かれた。

『なあ、アリア』
「何? バルザール」

 アリアと呼ばれた少女は、穏やかな口調で返事をした。

『あの女はお前を道具としか見てない気がするんだが』
「………そんな事ないよ。あの人は命の恩人なんだから」
『だけどよ。お前の怪我を気に止める様子すらなかったっつうのは、恩人にしちゃおかしすぎるだろ』
「きっとあの人も忙しいんだよ。だから少し機嫌が悪いだけ……きっとそうだよ」
『……………お前がそう言うんならしょうがねえな』

 バルザールはやれやれといった口調で言った。
 アリアは般若の面を外してベッドの上にそれを置くと、部屋を出た。
 バルザールは無言のままでいる。
 刀だから彼が何をしているかは分からないが、恐らくはアリアとその恩人について考えているのだろう。
 すると、部屋の外から水が流れる音が聞こえてきた。
 アリアがシャワーを浴びているのだろう。

『黒崎アリア………本当にそれでいいのか……』

 バルザールの呟きが誰もいない部屋に響いた。


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