第二章 動きだす運命


[01]第十八話



 森がざわめいていた。
 木々が警鐘を鳴らしているようだった。


 その日、私のいた村はあいつらに焼かれた。

 あいつらは戦う意志のない村人までもを殺していった。 ある者は苦しみながら死に、ある者は燃えて骨になり、またある者は一瞬で塵となった。


 私は両親に隠されていた。
 家の地下室に、無理矢理押し込められたのだ。
 床板の隙間からその惨劇を覗いていた。
 お母さんも、お父さんも、魔法のお師匠も、村のみんなが一人ずつあいつらに殺されていった。

 燃え盛る炎と地へ注がれる血で、全てが鮮やかな色に染まっている。
 村の中央広場に死体は野積みにされ、あいつらは何も手を加える事なく転移魔法で立ち去った。


 それからどれくらい経っただろうか。

 猛威を振るっていた火は鎮まり、森は静けさを取り戻しいた。
 ただ、焼け落ちた煤と血の匂いが周囲に蔓延していた。
 でも、あの惨劇を見た私の感覚は麻痺を起こしているらしく、何も感じない。
 何気なく見渡していた死体の山に、母親の身体を見つけた。首が、腕が、変な方向を向いていた。
 それでも私の内側に、悲しみという感情は生まれなかった。

 その後、燃え残った物から使えそうな物を集め、消え失せた故郷を捨てた。
 それと同時に、喜怒哀楽という感情や笑顔も捨てた。
 持っていったのは復讐の心。
 私から全てを奪ったあいつらを滅ぼし尽くす憎しみを心の内に秘めた。
 その時が来るまで、復讐が成就するまで秘める事を誓った。


 それから数年後、私はパートナーを見つけ、戦いに明け暮れた。


 そして現在。
 長い間待ち続けた。それでも機会はまだ来ない。
 しかし私の心は、村を捨てたあの日から時を刻んではいない。
 あいつらに復讐をするためだけに生きてきた。
 この身が朽ち果てようとも、必ず遂げてみせる。
 だが、私の想いは本当に変わっていないのだろうか………。



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