第一章 始まりは突然に
[06]第六話
「……なぜ、こうなる………………」
「ぐすっ……! だって、私料理なんて知らないもん……」
如月は、ネルフェニビアとその目の前にある小さな白い欠片を見て、呆然としていた。
何が起こったのかというと、タマネギの皮剥きをネルフェニビアはしていた。それも一生懸命に、だ。
そこまではよかった。問題はその次である。ネルフェニビアは、タマネギには涙を誘う刺激物質がある事を知らなかった。茶色の皮を剥いている時は何ともなかったが、実にあたる部分を剥き始めたら、涙が出て来たのだ。いきなりの出来事に、ネルフェニビアは何事かと驚き、すっかり混乱してしまった。そして、実の部分まで剥いでしまったのであった。
「はあ……。そのうち料理を教えないとマズいな」
如月は、頭をガリガリと掻きながら言った。
ネルフェニビアは、初めてのタマネギだったのか、まだ刺激物質が効いているらしく涙を流し続けている。
如月はネルフェニビアをテーブルのほうへ移動させ、ティッシュを渡した。自身は、その後冷蔵庫へと足を向ける。
冷蔵庫を開けるのではなく、その隣りに置いてあったネットの中からタマネギを一玉取り出した。
そして、手早く皮を剥き、適当に切って鍋に入れる。タマネギがしんなりしてきたところで、水を適量加えた。
再度加熱して、大分温くなってきた頃合を見計らって、ハヤシライスのルーを投げ込んだ。
そのままグツグツとルーを溶かす事30分。最後に隠し味の野菜ジュースを加えて、ハヤシライスが完成した。
その時、玄関から扉の開く音がした。
「どうやら父上の到着らしい」
如月がそう言うと同時に、廊下からダイニングへと通じる扉が開いた。
「おかえり、父さん」
「ああ。ただいま、耀」
如月は、父親の持っていた鞄とコートを受け取り、父親の部屋に置きに行った。
如月の父親は、白髪交じりのグレーな髪を持つ初老の男性だった。しかし、その黒い瞳の奥にある輝きや身体から溢れ出る闘志は、まさに働き盛りの若者のものである。
不意に如月の父親が、廊下へ続く扉を見つめていたネルフェニビアに声をかけた。
「君が、耀の言っていたネルフェニビア君か」
「あ、はい。ヴェリシル・ネルフェニビアです」
「私は如月慶喜(よしのぶ)だ。まあ、詳しい話は食べながら、という事にしようか」
慶喜はそう言うと、すでにハヤシライスが盛られている皿をテーブルまで運んだ。
その直後に、如月がやって来た。そして、皆で頂きます、と言って食べ始めた。
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