風船ガム


[08]8


 青空の下、俺達はただひたすら鯉を眺めていた。

「わぁー、あそこにいっぱいいるよーっ」

 少年が指をさすと、膨らみかけた風船が割れる。声をたてて笑う少年の横で、俺は口についたガムを剥いだ。

 オレンジ色までもう少し。




 いつからなのだろう。空に焦がれ始めたのは。




「じゃあね」

 少年が手を振る。

「あぁ、じゃあな」

 そこに隠れた言葉は『また会おう』。

「お兄ちゃんの声、そんな声だったんだ」

 そう言われて、初めて自分が今まで言葉を発していなかったのだと気付く。

「優しくて……、おれは好きだよっ!」

 曇りの無い笑顔が、何故か遠く見えた。

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