暴走堕天使エンジェルキャリアー
[07]招かれざる者 中編
「どう云う事だ、曹長!」
小笠原の声が響く。
「わかりません。キャリアー内部から敵性反応が検知されたとしか…」
「内部から?煤原三尉、聞こえるか?一体どうなっている?」
「こっちが訊きてぇよ!模擬戦も終了出来ないしハッチも開かないし!ぅわっ!?」
BEASTの一撃を喰らいビルに倒れ込むエンジェルキャリアー。もちろんコクピットのモニターの中での様子だ。
長門のパソコンでは模擬戦の様子はモニター出来ていなかった。
「管制室へ上がる。曹長、管制室からキャリアーへハッキングして原因を探れ。」
「はいっ!」
「俺はどうすりゃいいんだよ!?」
九十九の怒鳴り声が割って入る。
「ここからでは状況が解らん。別命あるまで自身で判断して対処しろ。」
「くそっ!軽く言いやがってえぇ!」
エンジェルキャリアーの左膝がBEASTの顔面に極まる。BEASTは唾液(の様なもの)を吹きながら上体を仰け反るも、直ぐに姿勢を直しエンジェルキャリアーに突進する。
「くそっ、キリが無ぇ!」
管制室に小笠原、長門を始め管制官数名が到着した。各人は直ぐに持ち場に就き、現状確認にあたった。
「キャリアーとリンクしました。モニターに出します。」
管制室のモニターにエンジェルキャリアーとBEASTの戦闘の様子が映る。
「戦闘しているのか?」
小笠原が長門に訊く。
「MAモードで調整中に突然敵性反応が…煤原三尉はそのまま模擬戦を。」
「こちらからカット出来んか?」
「キャリアー側からキャンセルされています。キャリアーは現在通常戦闘モードです。」
管制官の一人が答えた。
「どう云う事だ…?」
小笠原は爪を噛む。
モニターの中では依然、戦闘が続いている。
「ぅわっ!」
突然九十九の叫び声が管制室に響いた。BEASTの拳をまともに喰らった様だった。
「何で模擬戦で痛みがあるんだよっ!」
エンジェルキャリアーはそのまま後退し、BEASTとの間合いを開ける。
そこに小笠原の声が響いた。
「三尉、無理するな!一旦下がれ!」
「わぁってるよ!」
エンジェルキャリアーはビルの影に身を潜める。
「生体インターフェイスが生きているのか?何故…」
「小笠原二尉、これを…」
小笠原は長門のパソコンを覗き込んだ。
「敵性反応はキャリアーの記憶媒体から検出されています。」
「益々解らんな…?曹長、これは?」
小笠原は横からキーボードを叩く。
「キャリアーの左足に腐食…どう云う事だ?」
「そんな、自己診断では検知されませんでしたよ…」
「職務怠慢だな…いや、今はいい。曹長は続いてHDDを洗え。春日一等、整備班にキャリアーの左足を調査させろ。」
「了解。整備班は直ちに―」
エンジェルキャリアーの足元に数人の整備兵が集合した。一人はノートパソコンを繋ぎ、内部を調査していた。
「おかしいな…レッグユニットに異常無し…3番から12番の外装を外してくれ。」
「了解。」
エンジェルキャリアーの脚部外装が外されていく。そしてフレームが露出する。
数人がライトで照らして目視するも、何ら異常は見つからなかった。
その様子は直ぐさま小笠原と長門に伝えられた。
「13番フレームだぞ、間違い無いか?」
「ええ、間違いありません。13、14、15番も異常ありません。」
「念の為16から24まで調べてくれ。何かあれば知らせてくれ。」
「了解しました。」
小笠原は受話器を置く。小笠原は暫く喋らず、爪を噛んでいた。
そこに突然、九十九の声が割って入る。
「二尉、曹長!まだ終わんねえのか!?」
模擬戦と云えど操縦しているのは生身の人間だ。九十九の疲労はかなりのものだった。
「いい加減しんどいぞ…!くそっ!」
「三尉…!三尉、後ろっ!」
「え?」
エンジェルキャリアーの背後から触手の様なものが現れ、エンジェルキャリアーの足元をかすめ取る。
「ぅわっ!?」
ズシン…
鈍い音を立てエンジェルキャリアーは倒れる。見ると、エンジェルキャリアーの足をかすめ取ったのはBEASTの右足だった。
右足を地中に突き刺し、触手の様に延ばし背後から狙ったものだった。
「…バケモノがっ!」
「曹長、まだ何も解らんのか!?」
小笠原の怒鳴り声が響く。相当焦っている様子が見て取れた。
「やってますから当たらないで下さいよ!」
長門も相当焦っていた。
その間にも、エンジェルキャリアーはBEASTの攻撃を受けている。九十九の体力は既に限界に近かった。
「はぁ…はぁ…くそっ…うわっ!」
ズシン…
エンジェルキャリアーはビルの瓦礫に埋もれる。
「三尉!くそっ、どうなって…」
長門は忙しくキーボードを叩く。
「小笠原二尉!」
突然春日の声が響く。
「何か解ったか!?」
振り返った小笠原の爪はボロボロになっていた。
「整備班からです。モニターを…」
「何だ…これは…?」
外された外装とフレームの間に、電送系に紛れ細い糸のようなものが這っていた。
糸は定期的に脈を打ち、その異様さを際立たせていた。
「曹長、下へ降りるぞ!一等、少し頼む!」
「はいっ!」
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