暴走堕天使エンジェルキャリアー
[40]乙女の時間 1
ハンガーに架けられたガブリエルとラファエルの周りを、数人の整備兵が作業をしている。その足下には、彼らに指示をだす長門の姿があった。
そしてその長門の後ろに、壁に体を預け作業の様子を見つめている彩夏がいた。
「すみません、もうすぐ終わりますから。」
「いいのよ。待ってるから。」
長門は彩夏の言葉に苦笑いで応えると、再び整備兵に指示をだす。しばらく後、一通り指示を出し終えると長門はノートパソコンをたたみ、彩夏に向き返る。
「お待たせしました。休憩室でいいですか?」
「うん。」
長門の先導で、二人は休憩室へ向かい歩き出した。
「ブラックでよかったですよね?」
「うん。」
彩夏の返事を聞いて、長門は自販機のボタン を押し、落ちてきたコーヒーを彩夏に手渡す。次に自分の分のコーヒーを買うと、彩夏の向かいに腰を下ろす。
「早いものですね。二尉が赴任してきてもう半年過ぎたんですね。」
「もうそんなに経つっけ。」
彩夏はそう言うと、コーヒーの栓を空け、一口煽る。それを見て、長門もコーヒーの栓を空ける。
「色々ありましたね。」
「そう、ね。」
「一尉が消えて二尉が赴任してきて、一尉が戻ってきてみんな揃って昇進して。飲み会もやりましたね、一尉の家で。」
「うん。」
彩夏は短く応える。そんな彩夏らしからぬ返答に、長門は苦笑いを浮かべる。
「何かあったんですか?」
長門は本題を切り出せない彩夏の代わりに、話を促す。
「准尉は…好きな人、いる?」
「え?」
長門は思いも寄らぬ質問に目を丸くする。
「今は…特にいません。」
長門はどう答えたか迷った末に、正直に答えることにした。
「そう…」
伏せた彩夏の表情を覗き見ることはできなかった。だが声のトーンから、どこか悲しげな心情が窺えた。
長門は返答を間違えたと悟り、話の先を促すことができなかった。だが、短い沈黙は彩夏が自ら破った。
「あたしね、好き…かもしれない人が二人いるの。多分、どっちも同じくらい好き…かもしれない。」
「二人、ですか。」
「二人。これっていけないこと、かな?」
いつの間にか、二人の手のコーヒーは空になっていた。
「悪くないと思いますよ。僕も昔ありましたから。そういう経験。」
「ほんと?」
「学生の頃ですけどね。悩ん で絞った相手にはふられてしまいましたけど。」
長門は苦笑いを浮かべる。
「だから、僕はそういう事は否定しません。」
「そう…」
彩夏はたばこを手に取る。
「しかしその二人って幸せ者ですね。二尉みたいな美人に好かれるなんて。」
「なっ、なによ、そんなこと…」
彩夏はたばこに火を点けるのを忘れ、顔を伏せる。そしてしばらく黙った後、紅潮した顔を上げて長門を見据える。
「あのね、わたしは…」
ピリリリリ。
「非常、回線…?」
「そう、みたい…」
彩夏の言葉は携帯の着信音に遮られた。
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