暴走堕天使エンジェルキャリアー
[16]祝勝会
照明を落とした薄暗い部屋のプライベートバーのカウンターに、山本の姿があった。グラスに注がれたフォアローゼスをぐいっと飲み干すと、傍らに置いてあった分厚く綴られた書類をパラパラとめくる。
「覚醒率は20パーセント弱…初陣にしてはまあまあと言ったところか。」
そう言って山本は窓の外に目を遣る。外では雨がしとやかに降っていた。
「へ…?」
長門が素っ頓狂な声をあげる。
無理もない。突然小笠原の自宅に呼び出されたと思ったら、こんな状況だったのだから。
「座りたまえ、准尉。」
小笠原が促した先にはどこで買ってきたのか、パーティー用のオードブルにピザ、そして数点のデザートと酒が用意してあった。そして、そのテーブルを囲む面子は小笠原、春日、そして、彩夏。
なんとも奇妙な組み合わせである。
「水無月二尉の就任歓迎会と初陣の祝勝会だ。」
「はぁ…」
歓迎会、という言葉と、いつもと変わらぬ小笠原の口調にただならぬギャップを感じ、長門は気のない返事を返すしかなかった。
そんな困惑した長門に、彩夏が声をかける。
「なによ、准尉。あたしのこと歓迎しないわけ?」
「いえ、そういう事では…」
彩夏の刺に長門がうろたえる。
「じゃあなによ?」
彩夏はさらに刺を刺す。
「ま、まあまあ…二尉もそう毒吐かないで…」
二人を制したのは春日だった。
「あら一等、上官に意見するわけ?」
今度は春日に刺を刺す。
「いえ、その…そう言うことでは…」
春日も彩夏の刺にやられてしまう。そこに、小笠原が助け舟を出す。
「その辺にしておけ、二尉。それと今日は無礼講だ。階級にはこだわるな。」
「はぁい。」
彩夏はわざとらしく左手を高く挙げて答える。
「二尉…水無月さん、出来上がってるんですか?」
長門が小声で小笠原に尋ねる。
「まさか。強がってるんだよ。」
そう言って小笠原は視線を伏せ、うっすらと笑みを浮かべる。その表情を、長門は見逃さなかった。
「一つ、訊いてもいいですか?」
彩夏が春日をいじめて遊んでいる時に、長門が小笠原に話し掛けた。
「―煤原一尉の事か?」
「―はい。」
「MIAと認定されたと言ったはずだが?」
「三佐はそれで納得されているんですか?」
小笠原はビールを一口飲み込む。
「准尉…何故BEASTは東京に…我々に攻めて来るか解るか?」
「え?」
突然切り返された小笠原の問いに、長門は答えられなかった。
「それが…何か?」
「様々な特性を持つ正体不明の適性体とそれを迎撃する為の人型兵器、エンジェルキャリアー。全く以て常識を逸しているとは思わないか?」
「それは…そうですけど…」
長門は口篭る。
「一尉は生きている。」
「えっ!?」
小笠原の突然の言葉に、長門は驚き声をあげた。
「本当ですか?」
「恐らくな。特捜部の第一稿で可能性が示唆されている。特務隊の特捜は優秀だからな。ほぼ、信用していいだろう。」
「じゃあ…一尉はどこに…」
「それは…」
「ちょっと二人とも!しんみりして何してんのよ。准尉も、あたしの歓迎会なんだからパーッと盛り上げなさい!」
彩夏が二人の会話に割って入った。そしてそのまま、彩夏のペースに飲まれていく。
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