ガイア
[06]上陸
青い空、白い雲、そして、緑の大地。よく見知った景色。だが、知らない場所。生い茂る緑を一望出来る高台の上に、エスポワールの姿があった。
エスポワールが見下ろす森の淵、入り口と呼べる場所に「揚陸艇クサントス」がパラボラアンテナを展開していた。
「外気温22℃、大気圧、1003.21hPa、紫外線が少し強いですが許容範囲内です。」
ラミアス情報士がキーボードを叩きながらモニターに映された情報を読み上げる。
「アレのせいだろう。」
「恒星…というやつですね。―初めて近くで見ました…」
「私もだよ。」
ビアッジとグレゴリオの見上げる先には、煌々と白く輝くおおきな恒星があった。
「船外の状況が分からんから断言は出来んがな…」
暫しの安息が広がったエスポワールの中央シェルターの一角で、ブライアン教授、グレイスを始め数人が、真剣な表情で話し合っていた。話題は、「重力」について、だ。
「って事は、つまり…」
シズルがグレイスに視線を送る。その視線に気付いたグレイスは無言で頷く。そして、シズルがブライアン教授に向き直り、重たく口を開く。
「―どこかの惑星に漂着した、って事ですね?」
「「漂着」か「到着」かは分からんがな。」
「「到着」で間違いないでしょう。恐らくは。」
背後から突然、若い男が割って入ってきた。ライアックだった。
「今ターミナルで確認した。揚陸艇が船外探査に出たらしい。」
「本当ですか?」
グレイス、セシア、シズルが驚きの声をあげた。だが、グレイスは別の理由で驚いていた。グレイスがブライアン教授に視線を送ると、ブライアンも同じ理由で驚いている、と言いた気に、静かに頷いた。
「グレイス、どうしたの?」
不意にセシアに声を掛けられ、グレイスはぎょっと声をあげた。その様子を見たシズルが思わず吹き笑うと、全員がグレイスに向き直りくすくすと笑った。一変弛緩した空気の中、グレイスは唇を尖らせながら頬を掻いた。
やがて恒星が赤く燃え陰が伸びる頃、クサントスの中ではラミアス情報士が懸命に情報収集にあたっていた。その様子を見ていたビアッジ艦長は、作業を止めさせた。
「もう陽が落ちる。夜はどこまで気温が下がるか分からん。エスポワールに戻るぞ。ラミアス、データを持ち帰りターミナルで検証しよう。グレゴリオ、帰艦するぞ。」
クサントスはアンテナを格納してエスポワールへ向かって走り出した。
ビアッジ艦長達の帰艦後しばらくして、エスポワール居住区の避難命令は解除され、市民達はそれぞれの家へ帰っていった。
「じゃあまた明日ね。次こそはミルクレープパフェを食べるんだから!」
「はいはい。解ってますよ。もちセシアのオゴりだからね。」
セシアと別れたグレイスは家路へと向かった。
「―あのライアックって人…いつの間にターミナルにハックしたんだ?B-1で有線を繋いだ素振りは無かったし、中央に入ってからはずっと僕らの近くに居たはず…」
答えの出ない疑念が錯綜する。気がつくともう自宅の玄関の前だった。
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