ガイア
[20]グレイス
薄暗い坑道を、単車に乗った二人の男が駆けていく。ビアッジ艦長とグレゴリオ操舵士だった。
「あの二人、どこまで行ったんだ?」
ビアッジの声は坑道に響くエンジンの音にかき消された。
「艦長!あれを!」
大声と同時に、グレゴリオが急ブレーキをかけた。その衝撃で、サイドカーに乗っていたビアッジの上半身が大きく前方へ倒れた。
「バカ者!老人を労らんか!」
「叱責は後程!それより…」
単車のライトが照らす先には、大きな観音開きの扉が寡黙に佇んでいた。
グレイスの左肩に激痛が走る。ハインリヒが右手で構えた銃の銃口から、うっすらと煙の筋が立っていた。
グレイスは痛みを堪え、やっとの思いで口を開いた。
「…何のつもりです…」
「帰すわけにはいかんと言ったろう?」
ハインリヒが銃を構えたまま言った。
「弾は残り9発ある。考えを変えてみてはどうかね?」
「お断りしま―」
パン。
グレイスが言い切る前に、ハインリヒは引き金を引いていた。その銃弾は、グレイスの右肩を撃ち抜いた。
「っあぁ!」
あまりの激痛に思わず声を上げる。その様子を見ても、ハインリヒとライアックの表情は変わらなかった。
「あと8発。大事に至らぬ前に考え直したほうが身のためではないかね?」
まるで虫でも踏みつけるような表情の無い顔で、ハインリヒが言った。
グレイスは両腕を血塗れにしながらも、ハインリヒの申し出を拒否し続けた。
「何だこの扉は…」
ビアッジとグレゴリオは大きな扉の前に立ち尽くしていた。
「あの二人、まさかこの奥に…?」
「ここまで出会わなかったんだ。それしかなかろう。」
その扉には取っ手らしきものは無かった。どうやって入ったのか、というグレゴリオの問いに、ビアッジは答えることが出来なかった。
パン。パン。
乾いた銃声と、グレイスの喘ぎ声が部屋に響く。そして床にうずくまるグレイスにライアックが近付き、言った。
「頑固だね。もう少し賢いかと思っていたんだが。―所詮はヒューマノイドという事か。」
ライアックは右手に構えた銃をグレイスの頭に押しつけた。
「これが最後だ。悪い事は言わない。我々の側につきたまえ。」
グレイスは荒い息を飲み込み、声を振り絞るように力を込めて言った。
「くそ喰らえ…だ!」
温厚で礼儀深い彼からは想像もつかない言葉だった。
まるでその答えを待っていたかのように、ライアックは不敵に笑った。
「残念だよ、サタニー君。君ならいい指導者になれると思ったのだがね。」
「…顔がにやけてますよ…」
グレイスの最後の皮肉を聞きとげたライアックは、銃の引き金に指をかけた。
(ごめん、セシア。もう一緒にミルクレープ食べられないや…)
その時、ヘルメスが目映く輝き、グレイスを包み込んだ。
「なんだ、これは!」
ハインリヒが叫ぶ。
そしてヘルメスから放たれた光は、部屋中を包み込んで行った。
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