ガイア


[02]漂流


休日のショッピングモールに、無機質なサイレンが鳴り響く。しかし、サイレンの物々しさとは裏腹に、人々の反応はあっさりしていた。
長い宇宙での航海故、今までにも何度か警報が鳴り響いた事があったからだ。驚き泣き出した子供を抱え、「大丈夫だよ」とあやす母親。しかし、同じ制服を着た物々しい男達が駆けつけてくると、さすがに皆の顔色は険しくなった。
「これより数分間、デブリベルトを通過します!鑑や居住区に被害がでることはありませんが、念のため、皆さんは我々に着いて最寄りのシェルターへお入りください。繰り返します―」
嘘と真実を巧みに織り交ぜたしなやかな弁舌。ままあることだ、と頷きながら、制服に促され人々は近くのシェルターへ誘導されて行く。その人並みの中には、グレイスとセシアの姿もあった。
「も〜っ!まだ全部食べてないのにぃ!」
「おちつけって…後でまた頼めばいいじゃん。」
「むぅ…ミルクレープぅ…」
軽い空気は彼等に限ったことではなかった。買い物を中断されたことをぼやく人も居れば、ペットの心配をする人も居る。
それは、人類がいかに長い間宇宙を旅し、その特異な環境に順応してきたかを物語るようだった。


「左舷3番エンジン全開!10時に舵を!」
ビアッジ艦長のしゃがれた声が響く。
「接触までの時間を再計算っ!」
「了解っ!…接触まで2分!」
「グレゴリオっ!いけるか!?」
「3、4番エンジン全開っ!デブリベルトに突っ込みます!」
グレゴリオ操舵士が舵を倒す。
「隕石、来ますっ!」
「総員、対ショック体勢!!」


―外の物騒なサイレンとは裏腹に、シェルターの中は気楽なものだった。買い物客の家族や友達グループ、デート中のカップル達はそれぞれに話に花を咲かせていた。もちろん、グレイスとセシアも。
「なにもこんな日にデブリに突っ込まなくたっていいのに…」
セシアが唇をとがらせた。
「そんな事言ったってしょうがないよ。それにいつもの事じゃん。避難訓練と一緒だよ。理事長の説教が無いだけマシだよ。」
グレイスが笑って応えた。

宇宙空間での最大の障害はデブリ、大小様々な「石」である。直接鑑体に当たってもなんの支障もない小さなものから、直径数十キロに及ぶ「石」が、高速で飛び交っている。その石が惑星や大質量体の引力に引かれ密集しているところを、デブリベルト(デブリ帯)と呼ぶ。
そんな障害を抱えた宇宙を旅する彼等にとって、デブリの飛来などはいわば「抜き打ちテスト」と同じ感覚だった。

「あはは!言えてる!」
セシアも笑って応えた。
その時、艦内に轟音と激しい振動が起こり、シェルターの明かりが消えた。
「なっ…なんだ!?」
「明かりが…」
「それより、今の振動は…!?」
シェルターが騒然とする。
一瞬のざわめきの後、シェルター内にガスが注入され、人々はしばしの眠りに入る―


[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.