ガイア
[16]ヘルメス
グレイスはハインリヒに連れられ、奥の部屋へやってきた。部屋の真ん中には石を積み上げた石碑のようなものが佇んでいた。
その石碑の表面では、不定期に光の筋が幾何学模様を描いていた。
その石碑を見つめていたグレイスに、ハインリヒが言った。
「これが何か解るかね?」
グレイスは答えられなかった。そこに、厚手のマントを着た女性がコーヒーを運んできた。ハインリヒは一つをグレイスに手渡し、コーヒーをすすりながら言った。
「これは―一種の演算装置でね。我々が地下に追いやられる前からここにあった。我々ではない誰かが遺した、オーパーツとでもいえるものだよ。」
「演算装置?これが?」
「そう。―およそ1000年前、人類は4度目の世界戦争を引き起こした。核が飛び交う筆舌に尽くしがたい凄惨なものでね。地上の生物の80パーセントが死滅した。」
「ちょっち待って下さい。1000年前?戦争?」
流石のグレイスも短時間にこれほどのものを見聞きさせられ、情報の整理がついていないようだった。
「ミスターヒムラー。彼らの歴史では―」
ライアックがハインリヒに告げる。
「そうだったか。なら口で言うより直接見てもらった方が早いな。サタニー君、来たまえ。」
促されるままにグレイスは石碑の前に立った。そして、石碑の真ん中にある一段飛び出た平らな部分に手をあてるように言われた。
「これで…どうしようって言うんですか?」
グレイスが怪訝な表情でハインリヒに向き返る。
「説明するより実際にやったほうが早い。さあ、「ヘルメス」に身を委ねよ。」
「ヘルメス…」
独り言のように呟いたグレイスは、ヘルメスと呼ばれた石碑に手を当てる。
すると、石碑に幾何学模様の光の筋が走り、やがて全体が輝きだし、グレイスは目映い光に包まれた。
隔壁の操作盤をいじりながら、シズルが声を上げた。
「これで…どうだ?」
ゴゴゴゴゴ…
重たい音を上げながら、隔壁が上へと開いていく。
「やった!館長ー!!」
「バカもの!離れろ!」
グレゴリオは大袈裟に喜びながら、ビアッジに抱きついた。そんなグレゴリオを払い除け、ビアッジはシズルに訊いた。
「ライラック氏とサタニー君は?」
「まだ奥へ行ったきりです。」
「そうなんです!直ぐ単車で迎えに行かないと!」
グレゴリオは慌ただしくバリオスの格納庫へ走っていった。
「こんな騒動に巻き込んでしまって本当にすまない。全て、わたしの責任だ。」
「いえ、そんな。この通り無事でしたから。それよりグレイスを迎えに行かないと。」
「そうだな。とにかく君はバリオスへ。医療班が待機しているから念のため検査を受けてくれ。」
「分かりました。グレイスのこと、お願いします。」
シズルは頭を下げ、バリオスに乗り込んだ。シズルと入れ替わるように、グレゴリオがサイドカー付きの単車に乗って戻ってきた。
「行くぞ、グレゴリオ。」
「了解です。」
グレゴリオはアクセルを吹かし、坑道の地下へ走り出した。
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