ガイア
[12]嵐
薄暗い狭い部屋に、数十の人間が居た。彼らはみな、厚手のマントとゴーグル付きのマスクで身を包んでいた。その内の一人が一段高い壇上に登り、低いトーンで言った。
「ガイアから報告があった。終に約束の日が来た。」
その言葉に、部屋中の人間が静かに頷いた。更に、壇上の一人が続けた。
「ガイアの使命は終わり、ヘルメスがその使命を引き継ぐ。いよいよ、1000年計画成就の時が来た。」
誰も声を出さなかったが、空気から全員が興奮している様が見て取れた。
船外調査2日目。岡の上のエスポワールのブリッジは、慌ただしい空気で満ちていた。
「オリュンポス西に巨大な積乱雲を確認しました。3時間ほどで、オリュンポス周辺が激しい嵐に襲われます。」
多機能衛生アルテミスから送られた気象情報をラミアス情報士がビアッジ艦長に報告する。
「直ぐにグレゴリオに打電しろ。近くに地下坑道に続く洞穴があったはずだ。そこに非難するようにと。」
「了解。」
ラミアスがクサントスに通信を開き、先の情報を伝える。
「新天地は我々を拒むか…?」
「サタニー君、マッケンジー君!すぐにクサントスに上がってくれ!」
グレゴリオが声を張る。
「何事です?」
「エスポワールからここら一帯に嵐が来ると連絡があった。いまの内に近くの洞穴に避難する。」
数分後、強風が吹き出し、雨が次第に強くなってきた。小型のクサントスは目的の洞穴にすっぽりと全体が収まった。そして数時間後、オリュンポス周辺は激しい嵐に見舞われた。
「だめだ。エスポワールと通信出来ない。」
グレゴリオが肩を落として言った。
「嵐、続くんでしょうか…?」
「アルテミスとも通信出来んからね。正直わからないよ。」
シズルとグレゴリオがクサントスの心配をしている中に、ライアックが割って入った。
「なに、直ぐに止むさ。根拠は無いがね。」
グレイスはその様子を黙って伺っていた。グレイスやブライアンが考える通りなら、ライアックに何らかの動きがあるはずだ、と睨んでいた。
(仮にそうだとしても…気象予報程度ならヤマカンでも…考えすぎか?)
そしてライアックの「予報」は見事に外れ、夜になっても嵐が治まることは無かった。
「グレイス…携帯が通じない…大丈夫かな…」
エスポワールの天井に映された星空を見上げながら、セシアは携帯を握りしめていた。その時、携帯の着信音が鳴る。
セシアは自分でも驚く程の早さで通話ボタンを押し、グレイスの名を叫んでいた。
「びっくりした…わたしよ。ミリア。」
電話の主はミリア・レイジ。シズルの恋人であり、セシアにとって親友であり、また、姉のような存在である(余談だが、エスポワールの艦長、ゲイリー・ビアッジの調査日誌にあったミリアとは熱人である。)。
「あ…ごめん。つい…」
「その様子だと、グレイスも繋がらないみたいね。わたしがグチろうと思って電話したのに…逆になっちゃったわね。」
セシアは携帯を握りしめたまま、嗚咽をあげて泣いていた。
「っく…ごめんね…ミリィ…ミリィも…」
ミリィも寂しいのに、と言おうとしたセシアの言葉を遮るように、ミリアが言葉を発した。
「いいのよ。好きなだけ泣なさい。」
ドゴンっ!
クサントスが避難した洞穴に鈍く大きい音が響き、クサントスは一瞬にして一面の暗闇に包まれた。
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