ガイア


[01]始まり


西暦―

と云う言葉が使われなくなって、どれだけの時間が流れたのだろう。
「移民船エスポワール」。気の遠くなる程のはるか以前、人類はその船に「希望」を乗せて、漆黒の宇宙へと旅立った。


「デブリの状況は?」
静かなブリッジにしゃがれた男の声が響く。艦長、ゲイリー・ビアッジの声だ。
「1000キロ先までかなり密集してます。現在の航路では進行は難しいです。」
「プラズマシールド展開。2時向こう200キロ、デブリの薄いところから抜けろ。」
「了解。プラズマシールド展開、航路変更します。」


―エスポワール一般居住ブロック。遠心式重力発生装置の上に敷かれた大地には、緑と水、空があった。そして、あらゆる生物がそこで生まれ育ち、子を遺しそして、土に帰っていった。
無論、人間も。

「グレイスーっ!」
大勢の人で賑わうショッピングモールの中の公園の噴水の前で、グレイスと呼ばれた少年が振り返る。
「セシア。」
「ごめーん!出掛けにママがね、ピンクのほうが可愛いよって言うから…怒ってる?」
頭の上で合わせた手のひらの下から、セシアと呼ばれた少女がグレイスの顔色を窺う。
「もう慣れたよ…」
グレイスは肩を落として溜め息をついた。その仕草を見てセシアはもう一度頭を下げた。
「でも…」
「…でも?」
セシアはもう一度グレイスの顔色を窺う。
「ピンクのワンピース、…似合ってるよ。待った甲斐があったよ。」
グレイスは気恥ずかしそうに視線をそらしながら、唇をとがらせた。どうやらこれは恥ずかしさを紛らわせる時のグレイスの癖らしい。照れてそっぽを向いた仕草を見て、セシアはグレイスの腕を無理矢理に抱き込み満面の笑みを浮かべた。
「行こ、グレイス!この前出来たケーキ屋さんのミルクレープパフェが美味しいんだって!」
「へぇ!じゃあ遅刻の罰にセシアのオゴりな!って引っ張るなって!」


「艦長っ!」
静かなブリッジに若い男の声が響いた。操舵士のグレゴリオ・ハンの声だ。
「本鑑7時より高速で接近する物体を確認!巨大隕石です!距離およそ8000!」
ブリッジが凍り付く。
「進路測定…現状の航路では6分後に本鑑と接触します!」
「取り舵一杯!回避出来るか!?」
「しかし、それではデブリベルトに突っ込みます!」
「隕石に潰されるよりマシだ!シールド最大出力で再展開!右舷4番エンジン最大噴射!艦内警報発令!民間人をシェルターに避難させろ!」
「りょ、了解!艦内緊急警報発令!民間人は直ちに最寄りのシェルターへ―」


―「美味し〜い!生きててよかったぁ〜!」
「おおげさだなぁ。でもほんと美味しいね。」
オープンテラスでデザートをつつくグレイスとセシア。テラスには彼等の他にも人が居り、休日のショッピングモールを賑わせていた。
「やっぱりテストの後はスウィーツ!疲れた頭には糖分よね。」
「テスト後じゃなくても食べてるじゃん。」
「いーの!スウィーツは私の生き甲斐なのっ!」
「ははは!大げさだなぁ!」
笑いながら他愛のない会話に花を咲かせるグレイスとセシア。そんな二人の隣を通り抜けて行く人並み。そんなありふれた賑やかな空気を、突然のサイレンが切り裂いた。


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