第43章


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「それも件の借りた言葉、かよ?」
 片眉を吊り上げるようにして尋ねる。
「ああ。思えば色んな言葉を与えて貰った……。今の俺があるのも全ては”あの子”のおかげだ」
 染み染みとマフラー野郎は呟く。――今思えば、その表情は穏やかながら、まるで煌々と照る炎が
既に去って後は燻ぶるだけの焚き火の跡のような、あるいはたったの一枚だけ枝に遺されて木枯らしに
揺さぶられている木の葉のような、物悲しさを孕んでいたように思う。
 ”あの子”……こいつを突き動かす”約束”とやらを交わした相手と同一人物だろうか。
口振りからして何となくそんな気がする。
 しかし、一体誰のことやら。チビ助はそんな言葉を与えられる程に流暢には話せねえし……
他に、染み染みと、大事そうに思い返すような相手――あっしは、まるで頭の上で電球が灯るようにピンとくる。
「もしかして、コレか?」
 あっしは片翼の羽根を小指に見立てて一本だけ立てて見せる。
途端にマフラー野郎は元々赤い頬を更に赤くさせ、「いや、まあ、その」とばつが悪そうに言葉を濁らせた。
「図星か」
 ニヤリと、してやったり顔であっしは嘴を歪める。



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