第43章


[32]


 ――変わったガキだったな。人間の癖にあっしらポケモンに恩返しねえ……。
 あっしは寝くたばっている団員共を見やった。なさけねえ、ヤドンよりひどいマヌケ面で
鼻ちょうちんを浮かべてうなされてやがる。奴らのポケモンに対する態度は人間の中でも
特に最底辺なのかもしれねえが、他の大半の人間共だってポケモンはパートナーだ家族だなんて
上辺では綺麗ゴト抜かしていても、内心では薄々あっしらの事なんて何でも言うことを聞く
便利な家畜としか見てねえだろう。表向きじゃあ違法とされてるポケモンの売買なんてのが
ロケット団を馬鹿でけえ組織に急成長させている大きな栄養源だってのが何よりの証拠だ。
需要があるから供給があるってのが奴らが作る”社会”って群れの仕組みだとテレビの良い子の
教育番組――あっしの元主人の下っ端野郎が安アパートでお決まりの安い惣菜弁当を餌みてえに
口に掻き込みながらぼんやりと意味も無く眺めているのをあっしも横で見ていた――でもやっていた。
 そのポケモンが団員共にどんなえげつないやり方で仕入れられてきたのかも知らず知ろうともせず、
軽々と奴らに金を出して買い取って、したり顔で大事な家族だなんて言っている輩が居ると思うと、
反吐が出そうになる。
「あのガキ、例え一人でもポケモン達を守るだなんてでけえ約束して、一体どう果たすつもりやら」
 あっしは諦めたように苦笑する。
「何事も一つ一つの積み重ねさ。どんなに小さく頼りなく見えても、意味ある一歩だ。
どんな大樹だって、それを支えているのは一本一本は細く頼りない根っこなんだから、ってね」
 言って、どこか懐かしそうに、思い出すように、マフラー野郎はふと薄く微笑んだ。

[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.