第39章


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潔癖なまでに透き通った水を湛えながらも、その奥底に何を潜ませているのか窺い知れない深い湖のような声色。ギラティナと言い争っていたもう一方の声だ。いや、それ以前にも俺はこの声を聞き、知っている。

 俺は素早く視線を走らせてその主を探した。右から左、天井までも見渡し、ふと視線を下へ向けると、足元にあった切れ目から、ガラスの“ひび”に似た細い光が伸びていることに気付く。
ひびは瞬く間に宙に蜘蛛の巣状に広がっていき、俺は慌てて祭壇から身を退いた。十分な大きさにまで育つと亀裂は音もなく中央から破れ、出来た隙間から煌びやかな七色の鱗をもつ蛇とも魚ともつかぬ滑らかな長い体がするりと抜け出て降り立った。

「久方振りですわね。お元気でしたかしら?あまり再会を喜べる状況ではないのが残念ですけれど」
「ミロカロス……いや、パルキア」
 その正体はパルキア――今はその魂と言おうか、が俺に接触する際に使っている仮の姿であり、後ろでのびている神体の真の持ち主だ。



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