第39章


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 従わなければすぐにでも支配を解き放つ。ギラティナの言葉はそんな脅しを孕んでいるようにも聞こえる。
体の自由が利くようになれば、すぐにでもまたパルキアの神体は襲い掛かってくるだろう。
奥の手を隠していたと分かった以上、今までのような油断は一切なく、俺一匹を消すには有り余る神の力を惜しみなく全力でだ。

 対する俺は、長い間ろくに飲まず食わず休まずで走ってきたこの体で、背後に退路も無いこの状況で、
それを迎え撃たなければならなくなる。もしも限りなく低い可能性ではあるが、
一旦パルキアを退けることが出来たとして、凶暴な魚達が闊歩するこの危険で異様な領域から逃れ、元の世界に無事帰る方法など見つけられるだろうか。

 ……どうやら、これからどんな命令をされようと従わざるをえない状況にまで、俺は追い込まれてしまっているようだ。いや、それは最初から、ギラティナの話に乗ってこの世界に送り込まれた時点で、もう俺は全身を縛られていたのだ。
その縛っているものが真綿だったせいで気づくのが遅れたが、じわじわと束縛は引き締められ、気づいた頃には余計な身動きの出来る余裕はなくなっていた。

「何を躊躇している。早くせい」
 急き立てられ、止むを得ず俺は砂地に降ろされた左の手の平に注意深く乗った。
ギラティナの操るパルキアの神体はゆっくりと左手を水平に持ち上げ、胸の前辺りに構える。



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