第35章


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 ※

 本が乱雑に積まれた部屋で一人、ロゼリアは溜め息をつく。その手に持った本の内容がつまらないわけでも、
あてがわれた部屋に不満があるわけではない。一見、狭くも見えるがロゼリアの小さな体格からすれば広さとしては申し分ないし、むしろ本の山に囲まれる事は人間の文字をあまりに難しすぎるものでなければ理解でき、文化や習慣に少なからず興味があるロゼリアにとって至福の状態であったろう。それが普通の心持ちの時であったなら。
 ミミロップが洋館を出ていってから数日、ずっともやもやした気分でロゼリアは過ごしていた。
食事をしている時も、エンペルトに文字を教えている時も、ドンカラスやビッパに映画やアニメの鑑賞会に無理矢理付き合わされている間も、頭にはずっとハナダでの敗北やキュウコンの言葉が巡っている。
 このままのんべんだらりとしていていいのか。負けたままで、馬鹿にされたままでいいのか。――いいはずがない!
ロゼリアの心が奮い立つ。本を勢い良く閉じ、強い意志を胸にロゼリアはドンカラスの部屋へと向かった。

 ・

「それで、得物を使った戦い方を習いたい、と?」
 片眉を吊り上げてドンカラスはロゼリアを見やった。はい、と力強くロゼリアは頷く。
 ドンカラスはロゼリアの頭の先からつま先まで眺めて首を傾げた。
どこからどう見ても、自分が少し力を入れれば簡単に折れてしまいそうなほどにロゼリアの手足は貧弱に見える。
とてもそのような戦い方に向いているようには思えなかった。
「言っちゃあ悪いが向き不向きってのがポケモンにもありやすぜ。
そもそもおめえさんにゃ刃にできそうな鋭い爪も翼も、ヒレだって無いんじゃあねえですか?」
 ドンカラスの言葉に、ロゼリアは花の中から毒のトゲを伸ばしてみせた。
「自覚はしています。ですが、向いてないからといって逃げたくない。自分自身に負けたくないんです」
 混じり気の無い真剣な眼差しをロゼリアはドンカラスに向ける。しばらくの間、睨み合いのような状態が
続いたが、ついにはドンカラスは根負けした。




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