第34章
[02]
岸へと着くと、急いでアブソルを陸に上げ、少しでも暖を取らせるために俺はマントを脱いでかけてやった。
あの大水でロゼリアは外へと押し流された後、溺れかけているところを運良くプテラに発見され、事無きを得たそうだ。
その後の顛末を、アブソルの様子を見させながらロゼリアに話して聞かせた。
「そうですか……」
そう一言だけ呟くとロゼリアは顔を俯かせて押し黙り、無言のまま看病を続けた。
押し潰されそうな沈黙が、俺達を包み込む。皆、一様に無念の表情を浮かべ、口を開くものはいない。
川の方から沈黙を破る大きな水音が立つ。戻ってくるラプラスの姿が見え、僅かな希望を胸に俺は駆け寄っていった。
しかし、その背に望む姿は無かった。ラプラスは力なく首を横に振る。
「入り口は崩れてきた岩で完全に塞れていました。内部の様子を窺い知ることもできません」
ラプラスの言葉に落胆し、俺はその場にふらふらと座り込んだ。
俺はまた大事なものを失ってしまったのだろうか。
※
崩れ落ちた岩の下から、土埃や蒸気とは明らかに異なる、紫色の霧が吹き出す。
「ったく、冗談じゃねえ!」
不気味な霧は苛立たしげな声を上げると、徐々に密集していき、ゲンガーの姿となった。
「あんなのに関わってたら怨念と未練が幾つあっても足りねえっての。あっという間に成仏しちまうぜ」
同じように続々と岩の下からゲンガーの子分達が抜け出し、苛立つ親分の周りに集った。
「どーするんすか、この後」
「もう知るかよ。さっさと、こんな所からはオサラバして、あんな奴らと関わらないで済むような場所へ高飛びだ」
そう言ってずかずかと足で地を踏み鳴らすかのように低空を浮遊していくゲンガーの後ろを、
へーい、と気だるく返事をし、ゴースト達はついていった。
と、その時、女がすすり泣くような声が、不気味に響く。ゲンガーは面倒臭そうに懐の辺りを探る。
「こんな時に誰だ」
そして禍々しい気を放つ石ころを取り出すと、顔の横にあてた。
「失恋の末に自殺した女の恨み声っすか。渋い着メロっすねオヤビン」
「ケケッ、だろ? ――はーい、もしもし、俺、ゲンちゃん。お話したけりゃロストタワーにお供えを振込……ゲゲェーッ!」
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