第32章


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「あの二人、仲間割れしているのか……? さて、一体何が起きてるんだ」
 戸惑いながらもレッドは油断なく身構える。

 開ききったカプセルから、大きな異形の人影がゆっくりと一歩を踏み出した。
立ちこめていた蒸気が強風が吹き抜けたかのように掻き消え、影はその正体を晒す。
「待っていた。お前達との再開を」
 感情の読めない声で言い、ミュウツーは浮遊したまま宙をゆるやかに滑るようにしてこちらへと向かってくる。

 俺は冷静に構えるように努めた。しかし、手のひらや額にじわりと冷たい汗が滲むのを感じる。びりびりと空気が震えてる気さえする。
 奴に突き付けてやる答えは簡単だ。断る、と一言いってやればいい。だが、その後にあの強大な超能力に
立ち向かい、打ち勝たなければならないのだ。例えレッドがついていようとも簡単ではないだろう。
あの元人間の二匹もどうでるかわからない。

「白い皮膚、長い尾――目撃情報と一致するな。確かに今まで見たこともないような奴だ。
見た感じエスパータイプのポケモンだとは思うけど……すごく強いな、きっと」
 いつになく緊迫した調子でレッドが話す。

 俺達の数メートル手前でふわりと姿勢をかえ、ミュウツーは地に降り立つ。そしてゆっくりと口を開いた。
「再び問おう。私と共に来い、お前達。力ある者達の世界を創り上げるために」
 その声は、絶対的かつ冷酷に洞窟に轟いた。そこに拒否する権利など既に微塵も存在してはいなかった。
 だが、決して屈伏するわけにはいかない。喉の底から声を必死に引っ張り上げた。
「断る。俺の答えは変わりはしない! お前の凶行は必ず食い止める」



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