第32章


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「そのつもりさ。じゃあその場所まで案内してくれないか。君を元に戻すには機械が必要だろうし、
僕達といるほうが一人よりまだ安全だろうしね。それと、君の名前は?」
「ああ、いいぜ。名前は……あー、このポケモンは何ていうんだ?」
 黒い犬は右前足を上げ、骨製の輪が巻かれたような足首をぶらぶらさせる。
「黒い毛並みと、髑髏の飾りを額にくっつけている犬のような見た目からして、デルビルってポケモンだと思うけど」
「じゃ、とりあえずその名で呼んでくれりゃいいぜ」
「何か名前を言えない理由でも?」
「思い出せねえだけさ。仕方ねえだろ? ま、しっかり護衛を頼んだぜ、チャンピオンさんよ。
俺みたいな民間人が巻き込まれてんだからな」
 嫌味ったらしく口の片端を吊り上げ、デルビルはレッドの脛辺りをぽんと叩いた。
 ――随分と都合の良い記憶喪失だ。
 その横柄さと、時折垣間見せる怪しい素振りに、苛立ちと不信感が募っていく。
「わかってるよ。じゃあ早速で悪いけど先導していってもらえないかな。リザードン、横について護衛してやってくれ」
「おう。こっちだ」
 リザードンを連れてデルビルは奥へ歩んでいく。
 これでいいのか、と俺はレッドを見上げた。と、丁度レッドと目が合った。
 小さくレッドは笑う。
「君は勘が良さそうだ。あいつの行動を見張ってくれないかな。不審な動きを見せたら教えてほしいんだけど」
 しゃがんでレッドが囁く。俺は無言で頷いた。

「何をもたもたやってんだ。早くしてくれねえか」
 苛立たしげにデルビルがこちらを振り替えり、急き立てる。
「待たせてすまない、すぐに行くよ。ちょっと靴紐が緩んでね。しっかり縛り直したから大丈夫さ。しっかりとね」



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