第32章


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「では、なぜ今はそのリーフの下に居ないのだ? 捨てられたわけではあるまい」
「うん……二年くらい前のある日、リーフちゃんがどこか遠い国に行かなくちゃならなくなったんだ。
事情で僕は一緒に連れていく事はできないらしくて、預かり手を探しててね。
チャンピオンになら、リーフちゃんも安心して託すことができるって事で、レッド君に預けられたんだ。
最初はどうなることかと思ってたけど今は結構レッド君のところも気に入ってるよ。時々、怖いけど」
「なる程な」
 出身が同じ他の二匹に比べ臆病な性格は、リーフという人間に過保護に育てられたせいなのだろう。
 温室育ちというやつか。

      ・

 迷路の終わりらしき降り梯子を見つけ、俺達はほっとしながら歩み寄っていく。
「――だろ。どうなって――」
 下の階より人間らしき声が聞こえてくる。
 しっ、とレッドが人差し指を縦にして唇につけ、俺達を止める。ぴたりと歩を止め、俺達はそれに従った。
「信じられねえ……。天罰か……そりゃ団員として悪事ばかりしてきたが……」
 今度はしっかりと人間の声が聞こえた。
 俺達は梯子が通された穴に忍び寄り、そっと下を覗き込む。
「悪い夢だよ……な。誰か、誰でもいい、助けてくれえ……」
 しかし下に人間の姿はどこにもなく、代わりに一匹の黒い子犬のようなポケモンが水溜まりを覗き込んで震えていた。
声を発するスピーカーらしき物も見当たらない。
「なんでポケモンになっちまってるんだよオォォッ!」
 ――何だって……?
 ぱらり、と不意に穴の端が少し欠け落ち、地で破片が砕けて音を立ててしまう。
「だ、誰だ!」
 怯えるように人間の言葉で叫び、黒い子犬は吊り上がった目でこちらを睨み上げた。

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