第31章


[06] 


「何をしている。噴火までもう時間は無いのだろう」
「悪いが、俺はここでお別れだ」
 ピジョンは申し訳なさそうに右の翼で頭の赤い飾り羽をさっと撫で、言った。
「何の冗談だ。つまらんことはやめろ」
「傷を負った翼が痺れてな。飛べないんだ」
 苦笑し、ピジョンは体を捻り左の翼の爛れた傷を見せる。
「な……! 何故そこまで状態が悪いと言わなかった」
「あの子に責任を感じさせたくなかった。そして言えばお人好しのあなた達のことだ。また誰を助けるか悩んでしまっただろう?」
「この馬鹿者がッ! 意地でも俺はお前を助ける。そしてたっぷりと説教してくれるわ」
 俺はピジョンの右の翼をしっかりと掴み、必死に浮かび上がろうとする。しかし、その体は持ち上がる気配すらない。
「無駄だ。ペルシアンには命令を達せずすまないと伝えておいてくれ。あなた達を恨むようなことはしないはずだ」
 握る手を無理矢理振り払うと、ピジョンは右の翼を大きく羽ばたかせた。
「悔いはない。俺は仲間達の下へ直接この羽を持っていくとするよ。
 短い間だったが、あなた達と旅ができて楽しかった。……じゃあ、な」
 巻き起こされた風に風船がとらわれ、俺の体が上空高くへと飛ばされた瞬間、鼓膜が破れそうな程の爆発音が轟いた。
 揺れる大気、降り注ぐ火と灰の雨。火山から下る高温ガスと砕けたマグマの死の波は島中に一瞬で広がり、
ピジョンの姿と、その名を呼ぶ俺の叫び声をかき消した。

 かくしてグレン島は滅び、二羽の死力を尽くし未知の敵から籠を守った勇敢なる部下と、一羽の大事な仲間を俺は失った。
 だが、これはミュウツー、そして“自分”達との戦いのほんの幕開けでしかなかったのだ。




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