第30章


[20] 



 それは、つまり。
「あなたは例の遺伝子実験の被験――」
 言い掛けた言葉を、ロゼリアは自らの口を花で塞ぎ押し込んだ。
「あれを読んだか。そうだ。ミュウ――オリジナルを元に優れた遺伝子を選別、付加、調整され、誕生した体。
創造者の手にも負えぬ遺伝子の落とし子。それが私、ミュウツー」
 出会った時から普通の者でないということはわかっていた。多少の後ろ暗い過去がある事くらいは覚悟していたつもりだ。
だが、あまりに陰惨たる事実にかけるべき言葉は見つからず、喉の奥に詰まるばかりだった。
「正気を失った者達に襲われたと言っていたな。その者達を解き放ったのは私だ。
この地下で培養漕ごと凍結されていたものを見つけたのでな」
「……何が目的だ。俺達はそのおかげで何度も生命の危機にさらされたのだぞ」
「より優秀な者の選別だ。蟲毒というものを知っているか。飢えた蟲共を狭い壺や箱に閉じ込めて共食いをさせると、
生き残った一匹は強い魔力を得るのだという。人間の考えそうなくだらん呪いだ。
無論、魔力を得るなどと信じてはいない。だが、選別の方法としては簡潔かつ合理的だと感じた。
 強き者が必要なのだ。大した力も持たぬというのに、自分達を生物の頂点と思い込みふんぞり返っている愚者共を引き摺り降ろすために。
この世に繁栄するべきは、小賢しさだけで蔓延してきた奴らではない。
選びぬかれた真の強者だけだ。
 奴ら――人間は自分達がまるで神にでもなったかのように我らを扱っている。
しかし、それももうすぐ終わりだ。私が終わらせてやろう。
これは攻撃、不当な侵略などではない。反撃――逆襲だ!
 共に来いお前達。生き残り私のもとへとたどり着いたお前達にはその資格がある」



[前n] [次n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.