第30章


[19] 



 隙間に手を入れ、ゆっくりと力を込め扉を開いていく。そうそう不意を打たれてばかりはいられない。
ミミロップとロゼリアを横に待機させ、俺は扉を背に部屋を覗き込んだ。
 書斎か資料室と言ったところだろうか。部屋の壁は棚となっており、床にはそこに収まっていたであろ
う無数の本が散らばり、積みあがっていた。そして部屋の奥の机に腰掛けているのは白い――。

「――ミュウツー!」
 思わず身を乗り出し、声を上げてしまう。次々と俺の背越しにミミロップ達が覗き込んでくるのを、背
にかかる加重で感じた。
 手にした本に覆い隠され、ミュウツーの表情は読み取れない。ぱらり、とページを一枚ほど読み進める
仕草を見せた後、姿勢を変えず
「お前達か」
とだけ言葉を発した。
「無事だったのだな。お前があの後どうしているのか気になり、様子を見にきたのだ」
 声をかけながら俺は少しずつ部屋の奥へ、ミュウツーのもとへと歩んでいく。
「それで……自分自身の手がかりは見つかったのか? いや、それよりもこの屋敷は危険だ。正気を失っ
た者達に我らも襲われた。まずは共に脱出を――」
 俺の言葉の途中で、ミュウツーは本を閉じて傍らに置いた。そして顔を片手で覆い、くつくつと堪える
ように笑いながら口を開く。
「自分自身の手がかり……だと? 私が何者なのかだと?」
 堪えていた笑いは荒れる川が決壊するがごとく溢れ出て、狂気じみた笑い声へと変わった。
「笑わせる! 私は何者でも無い。最初から何者でも無かった。人工的に造られた忌まわしき生命。哀れ
な実験動物でしかなかったのだッ!」



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