第28章


[19] 



「仕留めた……のか?」
「……わからん。だが、手応えはあった。生きていたとしても当分は再起不能であろう」
 ふぅ、と息を静かに吐き出し、ピジョンは荒れる息を整えた。
 少し遅れて、ミミロップ達が勝利に沸き立つ。
「少なくとも一矢を報いれた……か。勝ったんだな、俺は過去に――」
 歓声上がる中、ピジョンは立ち尽くし顔を片翼で覆い込んだ。その声はどこかくぐもっている。
 本来であれば、ここはしばらくそっとしておくところなのであろうが――ここは少し冷えるどころのレベルではない。うかうかとしていれば氷像の一つと化してしまう。
 俺は声をかけようとするが、その前にピジョンは自分の顔をさっと拭い払った。飛んだ少量の水滴が宙で凍りきらきらと消える。
「ありがとう、あなた達の協力に深く感謝する」
 俺の方を振り向き、ピジョンは深々と頭を下げた。顔を上げるとその表情は、ずっと背負わせられていた重荷を下すことがやっと許された、と穏やかに語っている。
「……うむ。それではここを出るとするか」
「ああ。だが少し待ってくれ。その前に――」
 何か思い立ったのかピジョンは振り向く。その先を見ると、戦利品とばかりにムウマージが青白い鳥の残した透明な羽を拾い上げ、自分の袋にしまい込もうとしていた。
「……先を超されていたか。すまないがその羽、俺に譲ってくれないか? 空っぽの仲間達の下へ、それだけでも供えたいんだ」
 そう声をかけられ、ムウマージは悩み始める。しばらく考えた後、快く――とはお世辞にも言えないが――了承し、ふよふよと近寄ってきた。
「すまないな、ありが――いつッ!」
 透明の羽を渡すと同時に、ムウマージはピジョンの羽を一枚引っ込抜いた。そして即座に抜いた羽をしまい込み、けらけら笑いながらムウマージは逃げさる。
「とーかこうかんだよー。ちょっとつりあわないけど、おまけー!」
 タダとはいかないか、とピジョンは苦笑いを浮かべ呟いた。
 さあ、早くこんな冷えきった洞窟とはおさらばと行こう。

 ――それにしても、あの時の炎……あれは一体なんだったのだろうか。
 今は腕輪には何も変化はない。気のせいだったのだろうか?
 燃えるように熱くなったと感じたのも、そしてあの時、アブソルの口からちらりと小さな炎が漏れたような気がしたのも――。




[前n]
[*]ボタンで前n
[#]ボタンで次n
[←戻る]




Copyright(C)2007- PROJECT ZERO co.,ltd. All Rights Reserved.