第25章
[01]
白毛攻めから何とか這い出し、解放された息を整える。
胸に込み上げてくる熱い思い。自然と口元がぎくしゃくと歪む。だが、ミミロップ達の前で情けない顔を見せる訳にはいかん。必死に押さえ込み、俺は顔を上げた。
「驚いた? ボクも驚いた!」
顔いっぱいに笑顔を浮かべ、曲刀のような黒い尾をぶんぶん振り回し、体中でアブソルは喜びを表現している。
もう一度、飛び付かれそうになるのをひょいと横に避け、なだめる為にアブソルの首の辺りをぽんぽんと軽く撫で叩いた。また窒息死させられそうになってはたまらない。
この様子、間違いなく“あの”アブソルだ。
「どうなっているんだ?」
ミミロップ達に聞こえぬよう、声を潜め俺は尋ねる。
「黒い奴に引っ掻かれて気を失ってから、何が起こったのかよくわからないけど、ボク助かったみたい。奇跡ってあるんだなあ……神様っているんだね――」
俺の様子に何となく状況を察したのか、アブソルも小声で話す。
“神”はお前だろう……。そう口に出してしまいたい気持ちはぐっと堪えた。
どうやら、俺を庇い傷を受けて倒れてからの記憶を、アブソルは忘れて――いや、忘れさせられてしまっているようだ。
気が付いたら見知らぬ草むらに一人で横たわっていたらしい。そして、同じく倒れるように寝ていた俺の姿をすぐに見つけ、俺も無事だったことを知ったという話だ。
「――そう言えばボクが目覚める前に、誰かの声を聞いた気がするんだ。
その体は暫しお前に預ける。その間、我は眠りにつくとしよう。普通と何一つ変わらない、ただのポケモンの一匹として生きてみせよ――って」
自ら記憶を封じたか、アルセウス。自分が出来なかった事を、この偶然に生まれ出でたであろう意識に託して……。
アルセウスの自信と威厳に満ちたあの声で「任せたぞ、友よ」と言われたような気がした。ふん、仕方がない。
「葉っぱの緑色、空の青色――綺麗だね、世界って。あのうす暗い部屋とは大違い」
アブソルは目を輝かせながら、俺達にとっては何気ない普通の景色を感動したように見回す。
――この幼い獣に、お前の創りだした世界の様々な景色を見せてやるとしようか。
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