第七章


[01]罪


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私は罪を犯した。



取り返しがつかない罪を。


そしてあの方を傷つけた。






大切なあの方。







我が君。








私は未来永劫赦されない。



例え裁きを受けたとしても。





もうあの頃には戻れないのだ。






我が君と過ごした懐かしい日々。

私はいつも傍らに仕えた。


並み居る臣の中、我が君が最初に声を掛けられるのは私であり、決断を下されるときも私にだけは事前に話してくださった。



我が君の行くところ、どこにでも、どんなところにでもついて行けた。



心の底から信じていたから。





そうして幾つもの季節が過ぎ、私たちを取り巻く様々なものが変貌を遂げた。



国も立場も言語も全て。



でも私たちの距離は変わらない。


いつでもいつまでもお側に居られる。





そう信じていた。







そうなるはずだった。









「・・・・・我が君」





かすれてひび割れた声は自分のものじゃないみたいだ。




老いた声。




私の本質。







「・・・・・我が君」



無意識に唇から漏れる。




何度も何度も熱に浮かされたように呼び続ける。








自分はとっくの昔に正気を手放していたに違いない。


我が君の役に立ちたくてがむしゃらに学んだ。

あらゆる知識を身につけ、望まれればどんな事もした。

非人道的なことにも手を染めた。




だが、それで我が君が喜んでくれるなら何の苦にもならなかった。




歪んだ感情だ。



決して正当性はない。




それでも役に立ちたかった、傍にいたかった。







「・・・が・・・・み」




喉がひきつれる。絞り出す声が奥で絡む。もう声にすらならない。








呼び続ける。





大切だから。
大事だから。









ここにいて欲しいから。







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